うぐしし/めしませめしませ/お食べください


 俺を呼び、目覚めさせたのはきっと審神者ではなかったのだ。
 遠くからあの子の元気な声がする。うぐいすさんうぐいすさんと声がする。元気なのに思いやりが込められた優しい声はいつまでも聞いていたい程だが、あまり返事をしないのもあの子が拗ねてしまう。だからこうして大きくもない声で返事をするのだ。
「ここにいる。」
「あ、いた!こんなところに居たのかよ鶯のじーさん。」
 主から茶菓子を貰ったからお茶しようぜとその子、獅子王は笑った。

 お茶を二人分淹れて、獅子王が貰った茶菓子を皿に盛り付けて、お茶の準備は万端だ。今日は獅子王が好きだと言っていた茶葉で、丁度良い温度。きっと君は気に入るだろう。すると獅子王は茶菓子を見て言うのだ。これは鶯のじーさんが気に入るだろうと。
「色が派手じゃないし、餡子が入ってるんだ。茶によく合うと思ったからさ!」
「そうか。」
「鶯のじーさんが気に入ると思ってこれにしたんだ!」
 胸を張る獅子王に、そうかとこぼす。
「選んでくれたのだな、ありがとう。」
 微笑みを浮かべれば、獅子王は失言にやっと気がついて頬を染めた。違う違うと口を動かし、やがて俯いた。どうしたのかと見つめていれば、小さな声がこぼされた。
「うぐいすさんが喜んでくれるかなって……。」
 その愛らしさに頬が緩み、その金色に輝く髪を撫でる。指通りの良いそれに、ちゃんと手入れしているのだなと言えば、だってと獅子王は語る。やはり声は小さかった。
「うぐいすさんよく撫でるから、習ったんだ。」
「誰にだ?」
「小狐丸に。あいつ髪にうるさいだろ、だから、」
 でも最終的に乱藤四郎も巻き込んで手入れの方法を学んだと獅子王は俯いたまま小さな声で言う。俺の為なのに何を恥ずかしがっているのだろう、とその顎に指を滑らせればぴくりと獅子王が震えた。そのまま持ち上げ、顔を見る。染まった頬、潤んだ目、恥ずかしいのだと語るように震える唇。嗚呼、愛らしい。
「うぐいすさん、どうしたんだ……?」
「いや、愛らしいだろうなと。」
「へ?」
「やはり愛らしいな。」
 まるで花のようだと言い、指を滑らせて額の髪をかき分けて口付けを落とせば獅子王は真っ赤になって動かなくなった。離れるのが惜しいと思いながらも手を放し、茶の前に座った。
「さあ、茶をしようか。」
 何も言わずに口を開閉する獅子王に、きみが持ってきた茶菓子を楽しませてくれと語りかける。
「獅子王が俺のために選んだものを。」
 嬉しいと素直に思ったことを、言葉に包んで伝えれば、獅子王は赤い顔で言うのだ。
「ぜんぶ食べてくれよ。」
 可哀想なほどに真っ赤に染まった顔で、震える唇で話すのだ。そうか、それなら。
「言われるまでもないさ。」
 全部綺麗に食べてあげよう。

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