「手の甲を切ってしまいました。」
「ええええええ!?」
デンチュラと戯れていたクダリが驚いてソファーから落ちました。そんなに驚くことないでしょうに。しかし私も吃驚しました。久しぶりに怪我をすると焦るものですね。
「ちょ、しかも結構深い!血!まず洗う!」
「そうですね、よろしければクダリはガーゼ等を用意してもらえませんでしょうか」
「まかせて!」
クダリが消毒液やガーゼを取り出す間に傷口を流水で洗い、清潔なタオルで止血を済ませます。ああ、タオルが一つ無駄になってしまいました。
「ノボリー用意したよ!」
「ありがとうございます」
しかしここで問題が。私は今手が片手しか使えません。これでは手当てなど出来ないでしょう。
「困りましたね」
「ノボリ、何してるの?座って」
「おや、手当てしてくださるのですか」
「もちろんでしょ!今ノボリ、手、使えない!」
「ありがとうございます」
クダリにただされるままにソファに腰掛け、片手をクダリに任せます。クダリは慎重に私の手を触りました。
(そんな、ガラスを扱うわけではないでしょうに)
「じゃあ消毒するね」
「はい。」
冷たい消毒液が染みます。クダリは丁寧に慎重に私の傷口に消毒液を含んだ綿を当てます。
「痛い?」
「まあ、少しは」
「そっか…」
(そんなに丁寧になさらなくても、いいのに)
消毒が終わるとガーゼをテープで固定します。絆創膏では塞ぎきれない傷口がすっかり隠れました。
しかし、手当てが終わってもクダリは手を離してくれません。
「クダリ…?」
「もう、怪我しないでね」
「家事をやる限り無理ですよ」
私が言うと、クダリは困ったようにいいました。
「そうだけど、なるべく、ね。」
クダリはそう言うと私の手の甲のガーゼにキスをしました。
(それなら)
「ノボリ?」
「ガーゼ越しではクダリを感じられません。」
「あはっ」
クダリは笑って私の唇にキスをしてくださいました。
ガーゼ越しのキス
(怪我をしないように気をつけましょうか。)