書類を書いていたペンが止まる。そしてしばらく動かなくなる。ノボリはそれをかれこれ三十分の間繰り返していた。原因は分かっている。クダリが居ないことだ。今日はノボリだけがバトルサブウェイに残って仕事をしていた。たまたま今日はシングルの挑戦者が多く、書類も徹夜覚悟の量になってしまった。
(デスクワークは嫌いじゃありませんし、バトルは楽しいからいいのですが…)
クダリに会えないのは、寂しい。
「はあ…」
「ノボリ?」
「どうかしましたかクダリ…ってクダリ?!」
ノボリが扉の方を振り向くと、そこには愛しい片割れがいた。いつもより優しい微笑みを浮かべて立っていた。
「クダリ、どうして」
「やっぱりノボリいないと、一人、寂しい。」
えへ、と笑うクダリにノボリは思わずペンを落とした。からからと転がる音。心臓がうるさい。
(嗚呼、こんなにも)
「ノボリ?」
(嬉しいなんて…)
涙でノボリの視界が滲んだ。それを見て、クダリは慌ててノボリに駆け寄った。そして座るノボリをかがんで抱きしめる。
「ノボリ、どうしたの?ノボリ」
「あ、あの、」
ノボリの声は震えていた。
「わ、私も。寂しかったです、クダリ…」
ただ会いにきてくれただけで涙が出るくらい。
「好きです。クダリ、あなたのことが」
「ボクもだよ、ノボリ」
愛しいよ、涙が出るくらい。
(大好きだよ、ノボリ)
(私も、です)