きっと明日はありがとうと言えるから/宮中/風邪の話


 頭が痛い。じくじくとした痛みに顔をしかめてしまう。杉田先生に薬を貰った方がいいとは分かってはいるものの、これぐらいで薬を貰うのもと躊躇する。多分そのうち治るだろうと俺は放置していた。それが悪かったと分かるのは数時間後。じくじくどころかガンガンと目眩すら感じる頭痛に部屋から動けないでいた。
(あー、やっちまった)
 少し休んで、マシになったら杉田先生のところへ行こうと決心し、何とかベッドに横たわる。横になったからとマシにはならず、時間経過でマシになると信じて目を閉じた。

 優しく頬を撫でられている。目を薄く開けば、心配そうに覗き込む宮沢サンが居た。名前を呼ぼうとするが、掠れた呻き声しか出ない。バタバタと音がしてエジソンが駆け込んでくる。そんなエジソンに腕を引っ張られているのは杉田先生だった。杉田先生は呼吸を整えてから俺の寝転がるベッドの隣に移動し、熱を測る間に幾つか質問をすると言われた。声が出せないことを身振り手振りで伝えれば、質問に頭を動かして答えてほしいと言われる。頷こうとして頭を動かした痛みに顔をしかめてしまえば、頭痛があると分かったらしい。体温計を杉田先生達が確認すれば、皆して難しい顔をする。どうやら熱があるらしいと思っていると、エジソンが氷枕を持ってくると部屋から出て行き、そんなエジソンさんに杉田先生は水も頼むと声をかけていた。宮沢サンはゆっくりしていてねと心配そうに俺の手を撫でてくれた。ありがとうと言おうとして咳き込み、杉田先生に無理に喋るなと言われた。

 エジソンと何故か坂口が持って来てくれた水と氷枕をそれぞれ机と枕の位置に置き、起き上がっていくつかの薬を飲む。これで諸々の症状がマシになるだろうと杉田先生は言い、兎に角安静にしているようにと言って部屋から出て行った。エジソンと坂口もお大事にと出て行き、宮沢サンも居なくなるのかと少し寂しく思った。風邪を移したら悪いのでその方が良いのだがとぼんやりする頭でつらつら考えていれば、そっと手を撫でられる。宮沢サンを見れば優しい顔をしていた。
「しばらく此処に居てもいいかな」
 驚いて目を開けば、宮沢サンは続ける。
「看病だよ。出来ることなんて殆ど無いけれど、人が近くに居るだけで違うかなって。」
 それにと少し恥ずかしそうに宮沢サンは続ける。
「ぼくが一緒に居たいんだ。ダメかな。」
 その言葉に、嬉しくて目が潤んだ。涙腺が弱っているのだろうか。痛みで頷けない代わりに、宮沢サンの手をやわく握った。それの意図に宮沢サンは気がついてくれたらしく、嬉しそうに笑ってくれた。

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