黄色の飴玉/宮中/青春をしてほしかった


 光が眩しい。太陽光が平らな地面に余すこと無く降り注ぐ。その様子を木陰に座って見ながら、季節の割りに暑い日だとぼうっとする頭で考える。すると見慣れた姿が遠くに見えて、嗚呼、彼の人だと嬉しくなった。
「中原君」
 はいと差し出されたペットボトルをどうしたらいいのか分からずに呆然としてしまえば、彼の人こと宮沢サンは熱中症になってないかなと言った。そう言えばやたらと体が火照る上に、汗があまり出ていない。ぼんやりする頭でそう考えて、ペットボトルに手を伸ばして受け取った。封は空いていて、簡単にキャップを外して中身を口に含む。スポーツドリンクだろうか、あまり味はしなかった。
「好きなだけ飲んだらこれを舐めるといいよ」
 片手に握らされたのは黄色い包装紙の小さな球体。飴玉、だろうか。この色ならば味は檸檬辺りなのだろう。ありがとうとお礼を言えば、待たせたのはぼくだからと苦笑された。そう言えば俺は宮沢サンを待っていたのだった。
「呼び出したのに遅くなってごめんね。途中で断れない用事を頼まれてしまったんだ。」
「いいよ、別にさ。俺はいくらでも待つぜ。」
「ありがとう。でも体の調子が悪いなと感じたら帰ってほしいな。ぼくは中原君の体を壊したいわけじゃないよ。」
 困った顔をする宮沢サンに、そう言うならと引き下がる。そして呼び出した理由を聞けば、近くに湖があるので共に見に行こうということらしい。ならば行くかと立ち上がろうとすれば、ふらりとふらついた。宮沢サンは休んでからにしようと俺を座り直させ、実は自分用にも飴を持っているのだと笑った。その手の中には俺に渡してくれた飴玉と同じ包装紙。包みを外して舐め始める姿にじゃあ俺もと包みを外せば、現れたのは黄色を帯びた半透明の飴玉。木陰の、葉から漏れる光でキラキラと輝く姿はとても綺麗だ。つるりとしたそれを口へ運び、放り込む。そして驚く、それは少ししょっぱい味がした。驚いていれば、宮沢サンが嗚呼と教えてくれた。
「塩が入っているらしいんだ。変わっているけど、美味しいからって」
 その口ぶりに違和感を感じれば、さらに宮沢サンは続ける。
「杉田先生監修で板垣君が作ってみたものらしいよ。ぼくが中原君のところに行くならと渡してくれたんだ。きっと中原君の様子に勘付いていたんだね。」
 微笑みながら言われたそれに何と無く気恥ずかしさを覚えながら、帰ったらお礼を言わないとと呟く。宮沢サンはそうだねと優しく言ってくれた。
 ころころと不思議な飴玉を舐めて、たまにスポーツドリンクを飲みながらぼうっとしていれば、段々とぼんやりとしていた脳みそが動き出してきた気がした。じんわりと汗も感じ、何と無く視界がクリアになった気がする。そろそろいいのかもしれないと立ち上がれば、ふらつきはない。多少は疲れを感じるが、これなら大丈夫だろう。
 二歩、三歩と歩いて日向に出てから、宮沢サンへと振り返る。そうして見た宮沢サンはゆっくりと立ち上がって、穏やかにこちらを見てくれた。だから俺はこう言って笑うのだ。
「さあ、案内しておくれよ」
 彼方の髪がキラキラと輝くまであと少し。

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