スパンコールガーデン/宮中/星と甘い話


 それはまるで星々みたいだ。
 真夏の陽が照らす庭に散らばっている欠片たちに驚けば、どうやらスパンコールという主に洋服のための小さな部品らしい。さっき紅一点の彼女が二階から落としてしまったのだと語る織田さんは蘭丸くん達が一生懸命に集めた煌めく部品達をプラスチックの蓋付きケースに収めていた。どうやらスパンコールを集めているのは手先が器用な人たちみたいで、ファーブルくんは特に多く集めているように見えた。ぼくも手伝えるかなと思っていれば玄関の方から休憩しろーと声が聞こえた。慣れ親しんだ声に反応して振り返れば、中原くんが玄関口に立っていてあれ賢治さんがいると目を丸くしていた。
 やあと声をかけつつ近寄れば彼からふわりと甘い香りがした。普段とは違うそれに疑問を覚えて首を傾げれば彼は嗚呼と告げる。
「ドーナツに砂糖まぶしてたんだよ。」
「ドーナツを作ったのかい?」
「分担してな。俺は砂糖をまぶす担当。ってお前ら屋敷ん中入れよおら休憩しろ飲み物も用意したぜ板垣が。つーか、スパンコール拾いで熱中症とか笑えねぇからな。」
 途中から皆に向かってそう言うと中原くんはぼくの腕をとって早く入ろうぜと引っ張った。その手はじんわりと熱くて、どうやら夏の暑さに参っているようだった。
 さっきまでいた屋敷の中に入ると少しばかり涼しく感じた。台所でドーナツと飲み物を二人分受け取って、戸が全て取り払われた広間の適当な場所に座る。向かいに座った中原くんを見れば頬が赤く見えて、熱中症かなと少し思うがすぐに原因に思い当たる。ドーナツを揚げていた台所に長いこといたのだ。揚げ物をしている台所が涼しいわけがない。
「大変だったのだろうね。お疲れさま。」
「ん、まあそこそこ。伊達ほどじゃねえよ。」
「伊達さんが揚げていたんだね。」
「そうそう。」
 ふーっと息を吐く中原くんに、そんなに暑いのならと手を伸ばす。動かない中原くんをいいことに外套に手をかけて脱がせて、中原くんの隣にその外套を軽く畳んで置いた。人のことをあまり言えないけれど、なぜ真夏に外套を着たまま作業をしたのか疑問だ。ついでにぼくもと、日差し対策として羽織っていた外套を隣に置く。そこでさっきから中原くんが一言を発してないことに気がついて彼を見る。すると目を丸くして微動だにしないで唖然としていた。
 金色の瞳がきらきらと煌めいて、惹きつけられるように見つめていれば中原くんが瞬きをした。そしてはあと息を吐いて、ふと彼の頬がさっきより赤いことに気がついた。
「宮沢さん、人前でそういうことやめようぜ。」
「あれ、名前で呼んでくれないのかい?」
「いや、そういう話じゃ、」
「呼んでくれると嬉しいよ。きみが呼んでくれると自然と笑顔になれるんだ。」
「そうじゃない、そうじゃない……。」
 中原くんは頭が痛いと額に手を当てた。それでは目が見えなくて、せっかく魅力的なのにと勿体無く思ってにじり寄って手を伸ばして中原くんの腕を動かした。中原くんは真っ赤な顔をしてぼくを見上げてじろりと睨む。でもきらきらとしていた瞳が、じわりと潤んだことでさらに煌めいていて、それはどこか庭に広がったスパンコールを思い出した。ふわりと香る彼に染み付いた甘い匂いが脳味噌を溶かしてしまいそうだ。それは皿の上のドーナツよりずっと甘い匂いのよう。
「中原くんの目はまるで宇宙だね。」
 そして瞼にと口を寄せれば、休憩にやってきた織田さんに部屋でやれと頭をはたかれてしまった。



title by.さよならの惑星

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