宮中/12.二人きりで残業


 ある日、ぼくと中原君は二人で森を探索していた。討伐していたアビンの一体が森の中に逃げたのだ。それだけなら良いのだが、どうやら街の人から盗んだ簪を頭に付けて逃げたらしく。それを取り戻してほしいとの依頼だったのでこうして探していた。本当は四人のパーティだったのだが、一緒に組んでいたマーリン君と原田君が二手に分かれようと提案したのだ。戦闘せず簪を取り戻せば良いのだと二人は語り、そのままぼくと中原君、マーリン君と原田君で二手に分かれた。
 がさがさと草薮や低木を揺らして中原君とあのアビンを探す。その中でふと中原君の白いうなじが見えて、思わず手袋越しにぴとりと触った。体を揺らして困惑顔でぼくを見上げる中原君の顔は赤い。そこではたと気がついたのだ。
「ふたりきりだね、中原君。」
 微笑めば、中原君は残業だろと赤い顔で言った。

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