宮中/宴の前に


 西日が強い。
 じりじりとした暑さにタオルで汗を拭う。運ぶカゴの中には南瓜と大葉。どちらもさっき自分が収穫した新鮮そのものの野菜だ。それらを運ぶ先はまずあの人の元。
「宮沢サン、これぐらいか?」
 その人は麦わら帽子を軽く上げてをこちらを見て、それぐらいでいいよと微笑んでくれた。
 今日は何やら宴をするらしく、食材が何時もより要るからと畑から収穫するものが多く、朝から順次収穫して、畑との往復は数回になる。なので、その助っ人として宮沢サンには俺が割り当てられたのだ。
 暑いので煩わしいと思う作業だが、宮沢サンが居るというだけで何だか強い意味を見出せそうだと思える。俺にとって宮沢サンは大切な人だし、その宮沢サンの畑だって大切なのだ。実は宮沢サンの農作業を手伝うのは初めてではない。
 宮沢サンは起きているうちの半分は畑で土いじりをしている。そんな宮沢サンと話をするなら矢張り畑のことが多い。その流れで少しずつ少しずつ手伝うようになったのだ。今ではこの畑に愛着があると言えるぐらいには、大切な場所だ。
 宮沢サンは汗を拭う。その様子を見て、飲み物を持って来ようかと聞けば、収穫した野菜を運んだらそのまま休もうと言われた。無理だけはしてほしくないと思いながら、頷いた。

 野菜をカゴと一輪車に乗せて運ぶと、屋敷でパタパタと準備に追われる奴らに迎えられた。お帰りと言われてただいまと返しながら台所の板垣を呼ぶが、現れたのは伊達だった。板垣は手が離せないからと理由を言って、彼は野菜を見て何がいくつあるかを確認した。そして他に畑には何があるかと宮沢サンに聞き、宮沢サンがそれに答える。その答えに伊達は満足そうに頷くと、とりあえずはこの分で大丈夫だと思うがもしかしたらもう一度頼むかもしれないと言った。宮沢サンは其れ迄休んでいるよと笑った。

 着替えを済ませ、冷えた麦茶を貰い、縁側がある風通しの良い部屋で畳に腰を下ろして休憩する。他の奴らはパタパタと準備したり、見回りにと大体が仕事をしていた。
 俺は隣の宮沢サンをちらりと盗み見るするとすぐに気がつかれ、疲れただろうと微笑まれる。俺は少し気恥ずかしくなりながらも、頷く。
「ゆっくり休むといいよ。多分今日はもう大丈夫だと思うしね」
「それなら、宮沢サンも休んでくれよ」
 そう言えば、ぼくも休んでいるさと微笑まれた。その様子に少しだけ物足りなさを感じる。もっと、笑ってはくれないのかと。
 しかし宮沢サンを笑わせる方法なんて思い付かないので、俺はまず麦茶を置いた盆を遠ざける。次に不思議そうにする宮沢サンの手と己の手を絡める。そしてそのまま畳に寝転がった。後ろにくいと引くものの、宮沢サンはこちらをほんの少し目を見開いているだけで座った状態のまま。だから俺は声をかける。
「昼寝しようぜ、きっと心地良いだろ」
 夕方だけどよと笑えば、宮沢サンはほんの少し困ったような顔をして、それからごろりと隣に寝転がる。そして繋いだ手に少しだけ力を込められた。
「中原君には敵わないのだろうな」
 眉を下げて微笑みながら言う宮沢サンに、何だか可笑しくてそんなのはこっちの台詞だと笑う。ケラケラと笑えば、宮沢サンの表情が変わる。
(あ、笑った)
 クスクスと笑う姿に、何だ簡単なことだったのだなと嬉しくなった。

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