宮中/呑み過ぎ注意/お料理する話


 中原は魚の煮付けの世話をしながら考える。さてはて何でこうなったのかと。
 始まりは確かゴッホとピカソの二人が腹が減ったと台所に来たところだった。俺は酒を選んでいて、宮沢サンはそんな俺が飲み過ぎないようにとの監視役だった。何か食べたいと台所を漁り出す二人が手にしたのはパンで、そのまま食べようとする様子にせめてトースターで焼けよと言い、ついでにこいつら昨日の夕飯食べてなかったと思い出したので卵焼きとお吸い物を手早く作って突き付けたのである。後は野菜はサラダぐらいなら見たことあるから作れるかと台所の片隅にある貯蔵庫から野菜を取り出して来てレタスとキュウリを適当に切って塩をふりかけたのを渡した。そしてはたと言われたのだ。
「中原君って料理が出来るんだね。」
 しくったと顔を覆った。
 そもそも隠していたわけではないし、太宰や安吾は知っていたし、何も焦ることなんてないのだが、何と無くやってしまったと思った。そんな複雑な心境の中でもゴッホは次までにドレッシングの作り方を覚えたらとか言うし、ピカソはスクランブルエッグを覚えろよとか言うし、宮沢サンはニコニコと笑っているし。とりあえず棒立ちするしか無かった。
 そして二人が食べ終えて食器洗いをさせて台所から追い出したら宮沢サンは言ったのだ。
「中原君のごはん、ぼくも食べたいな。」
 断れる訳もなく。
 そんな訳で丁度魚の煮付けが酒の肴に食べたかったなと思い立って板垣に許可を取って魚に刃を入れ、煮付けを作っている。量は丁度二人前ぐらいのものを選んだ。醤油と生姜と酒で味付けしたそれた多分不味くはない。せっせと世話をしているとひょいと夏目先生が現れた。俺の姿に驚きながらも魚の煮付けかいと言うと鍋の中を覗いてやっぱりと笑った。食べるかと聞けば自分は甘味を食べに来たと断られた。程々になと言えば、宮沢サンも同じ様に言った。夏目先生は笑って、手早くジャムを取り出すとひと匙食べて丁寧に仕舞った。一度にたくさん食べると杉田先生がうるさいんだとボヤいて、じゃあねと台所を出て行った。宮沢サンが本当に甘味を食べに来たんだねと苦笑するのに頷きで返した。
 宮沢サンとポツポツと会話をしていると煮付けが丁度良くなったので火から降ろし、皿に盛った。ついでに宮沢サン用にごはんを茶碗に盛り、そっと机に並べた。箸を渡せば、宮沢サンはありがとうと笑った。
「美味しそうだね。」
「久しぶりだから味の保証はねえよ。」
「ふふ、そっか。」
 酒を用意して席に付けば、二人でいただきますと手を合わせた。それぞれ煮付けをつつき、口に運ぶ。ふわと柔らかくほろりと解けるそれに美味く出来て良かったと安堵すれば、宮沢サンが嬉しそうに美味しいよと言ってくれた。それに照れてしまい、酒を煽れば、ゆっくり呑むんだよと注意された。アンタの所為だとジトリと見れば、やけに嬉しそうな宮沢サンが居て。
(幸せそうに……)
 また作ってもいいかなと思えた。

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