乱コナ/無駄騒ぎ事件簿/テーマ:だから言っただろう?/友達以上恋人未満な乱コナ/わりと色んな偉人さんが出てきます



 これはその日に騒ぎとなった、乱歩曰く無駄騒ぎな話である。

 事の始まりは朝ごはん前に芥川龍之介が鉛筆が一本足りないと騒いだことから始まる。なにやらこの世界で受けている仕事の納期が近いとのことで苛立っていた彼は鉛筆の一つにやけに拘った。そしてそんな彼にうっかり用事で話しかけてしまった紅一点の彼女が乱歩に土下座をして鉛筆探しを頼み込んだのだ。ワタシ、A・コナン・ドイルは眠気覚ましのコーヒーを飲みがてら確実に起きていると分かった乱歩と会話でもと偶然その場に居合わせていた。その為に、くだらないことを頼まれたものの彼女の頼みだからと断れず不機嫌になった乱歩から共に鉛筆探しをしろとの白羽の矢を立てらてしまったわけだ。
 乱歩と屋敷の中を歩いていれば、今度はレオナルドがなにやら屋敷の中をせかせかと歩き回り人々に何かを尋ねていた。思わず話を聞けば、レオナルドは紙が足りないのだと言う。無駄話をするなと言いたげな乱歩に睨まれながらも、不思議だなと思う。レオナルドはあまりにも多くのメモやデッサンをしようとするから、古紙ながらも紙は多く配給されていた筈だ。そこで乱歩が歩き出してしまったので、レオナルドに力になれそうになくてすまないと伝えてから乱歩を追いかけた。
 次に出会ったのは板垣退助だった。場所は台所であり、偶然通りかかった際に首を傾げていたことでワタシが独断で話しかけたのだ。レオナルドの時と同様に乱歩に睨まれたが気になったのだから仕方が無い。板垣にどうしたのかと聞けば、少し離れていた間に炊いたご飯が減っていたのだとのことだった。そう言われて炊飯器を覗き込めば、茶碗一杯分ほどのご飯が減っていた。板垣は、困るほどの量が減ったわけではないし大方お腹を空かせた誰かが食べただけだろうが気になってしまったと苦笑していた。少し不思議な出来事だなと笑いあってその場を離れれば、乱歩がつかつかと廊下を進んで行くのでそれに付いて行った。
 歩いていれば出会ったのはドナテッロだった。彼は何かを探しているようで、話しかければどうやらナタを探しているらしかった。子供勢と玩具を作るので個人で使っているものでは危ないから共用のものを使いたかったのだが普段の場所に無かったのだと困り顔の彼に、誰かが使っているのだろうと言えばそれにしては利用時の名簿にサインが無かったと言う。つまり無断で誰かが持ち出してしまったということだ。これは困ったなと思えば、後ろから声をかけられる。振り返らなくてもその人物が分かり、驚く。乱歩だったからだ。てっきり先に進んでいるかと思っていたと言えば、 ドナテッロに乱歩は芸術家用の資材の中で竹が減っていたかと聞いた。ドナテッロはどうして分かったのかと驚いていた。
 行くぞと早足で歩き出した乱歩に、挨拶をして急いで隣に追いつけば、迷わず歩みを進める様子に気がついて、乱歩には目的地があるのだと分かった。隣を歩きながら不思議な出来事が続いたと回想する。まず芥川の鉛筆、レオナルドの紙、板垣の炊いたご飯、共用のナタと竹。それらが全て無くなったり減ったりしていた。そこで乱歩が言う。
「君なら分かるだろう。」
 その言葉で、ピンときた。鉛筆、紙、炊きたてのご飯、ナタと竹。それらを、全て使う可能性のある者たちの中で、今の状況で関わっていることが一番確率の高い人物達。

 乱歩がノックもせずにその人物達の部屋のドアを開いた。
「あれ、乱歩さん?」
「え、……どうか、しましたか?」
 そこにはライト兄弟がいた。そして手元には設計図と作りかけの飛行機の模型。そう、彼らが全ての発端だったのだ。

 事情を聞けば、昨日の夜に新たな飛行機の案を思いついて夢中で作業していたら、早朝に鉛筆と紙が底を尽きてしまった。なので弟のオーヴィルがその二つを借りに芥川龍之介とレオナルドの元に向かった。許可をもらったと彼は言うが、多分彼らは作業に夢中で覚えていなかったので騒いだり尋ねて回ったりすることになったのだろう。そしてご飯と竹とナタはウィルバーが調達した。それらは模型作りに足りなかったもので、ご飯は接着剤が作れると人から聞いた覚えがあったからとご飯をもらおうとしたら台所に板垣退助がいなかったのでまあいいだろと勝手にご飯を拝借し、模型に代用品として使う竹ひごの為の竹を分けてもらおうと思ったが誰に聞けばいいのか分からなかったし大量にあったのでこれまたまあいいだろと必要分を拝借。さらに竹ひごを作るためのナタを借りた。ご飯と竹については恐らく徹夜のせいで思考回路が鈍っていたのだろう。ナタに関しては普段借りないので名簿にサインすることを知らなかったらしい。

 それからはライト兄弟に返せるものは返しに行かせ、事情を紅一点の彼女に話して必要なものを至急取り寄せてライト兄弟に配給。そうして簡単な注意と睡眠をとらせて解決となった訳だった。
 乱歩の部屋に戻れば乱歩は苛立ちながら机に向かった。原稿が中断されていたわけでもないのにと苦笑してしまう。ワタシは今回の騒動の発端を乱歩のようにすぐに気がつけなかったが、乱歩が丁度原稿を書き終えたところで彼女がやって来たことは知っているのだ。乱歩は原稿をまとめて袋に仕舞う。さてそろそろ朝食だからとすっかり冷めてしまったコーヒーを胃に流しこんで部屋を出ようとすれば乱歩の不機嫌な声に止められる。どうしたのかと振り返れば、乱歩は机に向かって筆記具を片付けながら言う。
「朝食を食べたらまたここに来るように。」
「……ん?」
「聞こえなかったか。」
「いや、そういうことではないが。」
「朝食後に森鴎外先生に呼ばれていることは把握済だ。」
「分かっているじゃないか。その用事があるからワタシは此処には来れないのだよ。」
「そしてさっき無駄話をしている間に会った先生にもう話はしてある。」
 変わらない不機嫌な声に、ワタシはため息をぐっと堪えた。後で森鴎外には謝らなければと頭に刻みながら、乱歩に語りかける。
「拒否権はないのだね?」
 そこで乱歩がちらりとこちらに顔を向けた。見えた横顔の目はゆるりと細められていた。
「最初からそう言っているだろう。」
 どうやら声色ほどに不機嫌ではなかったようだ。

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