みんなでピクニック/中原視点/沢山の偉人が出てきます


 朝、子供たちの声で目が覚める。どうやら隣の部屋の住人を起こしているらしい。どうせこちらにも来るのだろうと起き上がった。
 着替えを粗方済ませればドアが勢い良く叩かれ、開いていると言えばドアが開かれる。
「朝だよ中原さん!」
「おう。それは分かる。おはようウィルバー。」
「おはよう!」
 やたらテンションの高いライト兄に弟は何処だと思えばすぐ後ろに居て、いつものように静かだなと思っていたらその目はキラキラとこちらを見ていたので訂正する。こっちも何やらテンションが高い。ちなみにドアの向こうではパスカルが松永の手を持って走り去った。恐らく隣の部屋に突撃したのだろう。松永の困惑顔が凄まじかったが、大丈夫だろうか。他にもエジソンとファーブルが穏やかに屋敷の住人を起こしている声や、恐らく相部屋で好き勝手深夜まで描いていたであろう画家勢を叩き起こす浅井の声がする。浅井に関しては誰か援軍が必要だと思うのだが。
「で、何だこの騒ぎは。」
 聞けば兄弟は声を揃えてピクニックだと叫んだ。

 兄弟に手を引かれて台所に連れて来られればそこにはてんやわんやの戦場が広がっていた。逃げようにもがっしりと兄弟に腕を掴まれている。板垣が挨拶もそこそこにおにぎりを作ってほしいと言った。既に安倍が作っているのだが時間までに数が間に合いそうにないとの事だった。おにぎりぐらいならと了承し、手を洗ってから席に座った。
「海苔と塩はあそこで具はこの辺りのを。ご飯はこの木桶にある分全部です。」
「多くねエか。」
「これでも減った方なのですが。」
「あっちの重箱が全部おにぎりだったりするのか。」
「何せ男性ばかりですし。」
 ちらりと板垣を見ればおかず作りに手一杯らしく、伊達は黙々とサンドイッチを作っていた。その他にも何人かが手伝っているが余裕はありそうに無い。
 そこへこの屋敷の紅一点が現れた。彼女は自分に何か手伝えることがあるかと聞き、サンドイッチ作りの方へと助っ人に向かった。

 おにぎりは朝食分も兼ねており、朝食はおにぎりと漬物だった。海外勢のは具材を工夫したので問題無さそうだった。わりと長く集団生活しているのでそれぐらいは分かるし、向こうもそれなりに慣れている。
 朝食を終えると、どうしても外せない用事がある人以外は強制参加だよと夏目が微笑みながら言った。補足説明は芥川と安吾で、ローテンションとハイテンションで中々に幅が広かった。
 現地では六人ぐらいの班で行動となったので辺りを見回すと宮沢さんとピカソが話しかけて来てくれたので班を組むことにし、ピカソがゴッホを引きずって来たので四人。あと二人ぐらいと思っていたらマーリンがガリレオと話し込んでいたので、話しかけに向かう。
「どうかしたのか?」
「あ、中原君。ガリレオ君が少し不安そうでさ。班を組もうかって言ってたんだ。」
「ふうん。じゃあ二人とも一緒に組もうぜ。こっちは宮沢サンとピカソとゴッホが居るけど。」
「オレは構わないけど、ガリレオ君はどうだ?」
「私は、大丈夫です。あのいいんですか?」
 少し不安そうな目に、問題なんて無いと言えば笑ってお礼を言われた。六人で合理するとまず改めてそれぞれが自己紹介をした。この屋敷の住人は多過ぎるので、顔と名前を一致出来ない人物が居るというのがよくあるからだ。
 周囲を見れば班は順調に決まったらしい。あまり積極的でない人物が居てもさっきのマーリンのように話しかける人物が豊富だからだろう。ちなみに紅一点の彼女は織田の所だった。そこの班には森蘭丸や明智やシューベルトが居たので納得した。織田頑張れ。

 ピクニックは歩いて三十分ほどの湖がある広い公園だった。手入れされた芝生を踏みながら六人で場所を探し、木陰がほしいからと木の根元にレジャーシートを広げた。ちなみにレジャーシートは班それぞれで違うらしく、俺たちのは赤と青のチェックだった。あらかじめ宮沢サンとピカソが受け取ってくれていた六人分のお弁当を置き、全員がシートの上に座った。子供勢のはしゃぎ声を中心にあちらこちらから聞こえる騒ぎ声を聞き流しながら、何をしようと話す。
「ボクは絵を描くから。」
「オレもだぜー。」
「外でも変わらないね。」
 のほほんとした宮沢サンの声に当然と返したゴッホは自分で持ってきた鞄を開き、スケッチブックと鉛筆と木炭を取り出した。ピカソも同じように自分の鞄から画材を取り出す。二人ともスケッチをすることを目的としていたらしく、それぞれがふらふらとモデルを求めて歩き出した。宮沢サンと二人で昼には帰って来いよと呼びかけてからマーリンとガリレオの方を向いた。ガリレオは何やらぼうっとしており、マーリンはそんなガリレオにぼんやりと語りかけていた。二人はのんびりとすることに徹するらしい。ガリレオは戦闘に駆り出されることが多いし、マーリンはおつかいに行くことが多いので疲れが溜まっているのだろう。それにしてもこの状態からして、班で行動という意味はあったのだろうか。

 持ってきたトランプで宮沢サンと何度目かのスピードをしていると空を眺めていたガリレオがお昼だと呟いた。確かに騒がしいのが遠くに行ったので静かになっていたのが、緩やかに賑やかさを取り戻していた。じゃあそろそろとピカソとゴッホを探せば、ゴッホがピカソを引きずって登場した。朝と逆だなと言えば、お腹空いたと斜め上の回答が返ってきた。
 弁当の重箱を広げればおにぎり、サンドイッチ、おかず、デザートのそれぞれ一段だった。デザートはおはぎとずんだ餅のようだ。いただきますと手を合わせて食事を始める。
「あ、このおにぎりツナマヨだ。」
「宮沢君いいなーオレもツナマヨ食べたい。」
「こっちのもツナマヨの筈だぜ。」
「ありがとう中原君!」
「それオレが狙ってた唐揚げ!」
「知らないよ。まだあるじゃないか。」
「ピカソ君とゴッホ君は喧嘩しちゃ駄目だよー。」
「宮沢君の言う通りだな。あ、ガリレオ君はなに食べる?卵焼き?」
「あ、食べます。あと中原さんは隙を見てミニハンバーグを皿に入れなくて大丈夫です……。」
「だってさっきから食べてねエし。」
「親戚の叔父さんみたいだね。」
「とかいいつつ宮沢君も南瓜の煮物をガリレオ君の皿に入れてるけど。」
 わいわいと食べているといつの間にか弁当がデザート以外は空となる。やはり成人男性が六人集まればこれぐらいの量は食べきるのだろう。デザートを食べながら会話をしていればピカソが俺の持ってきたトランプに気がついたらしく、ババ抜きが始まった。最初に上がったのは宮沢サンで、残ったのはピカソだった。ピカソが次は負けぬと気合いを入れて立案した七並べをすれば今度は最初にマーリンが抜け、最後はゴッホだった。ピカソは二番に抜けて喜んでいた。ちなみに俺は三番目である。
 トランプで遊んでいると途中で石田三成と島左近が通り掛かりに顔を出したので二人も混ぜてポーカーをした。すると何故か石田が高確率で惜しい負け方をしていたので何やら精神的にダメージを受けていた。島はそんな石田を慰めながらもたまに勝っていた。
 二人が去るとゴッホが通りかかった鳥をデッサンしだし、それに触発されたらしいピカソは画材を持って湖へと向かった。残った四人で平和にポーカーをしていればジル・ド・レとレオナルドを見かけたので巻き込んで遊んだ。

 そうこうしていれば帰る時間となったらしく、それを告げる織田の声が聞こえだした。宮沢サンがピカソを回収に向かい、ゴッホは自分の広げた画材を片付け、俺とマーリンとガリレオでレジャーシートや重箱などの後片付けをする。そしてピカソは宮沢サンに引きずられて帰って来た。

 屋敷に帰れば、数人がかりで片付けをするらしくばたばたとし始めた。俺は朝手伝ったので免除され、同じ理由で免除された安倍と茶を飲む。酒は止められた、と言うより酒がある台所は立ち入り禁止のような状態だからだ。安倍はそんな俺に笑いながら煎餅を差し出したので、少し恥ずかしく思いながらお礼を言って受け取る。胡麻が練りこまれたそれを音を立てて齧れば、安倍が問いかけてくる。
「今日は楽しかったですか?」
 その言葉に少し驚き、気がつけば勿論と零していた。

- ナノ -