偶然の功/乱コナ/緩やかで穏やかな切磋琢磨


 ふらりと自室を出て、すれ違った中原君に少し散歩をしてくると伝えれば食事迄には帰って来いよと見送ってくれた。
 玄関から出て、外で実験に駆け回るライト兄弟ことウィルバー君とオーヴィル君を見つけた。二人はこちらに気がつくと、行ってらっしゃいと手を振ってくれる。なので行って来るよと手を振り返して屋敷の敷地外へと歩き出した。

 屋敷の敷地から出て、公園へと歩く。途中にある落葉樹の紅葉を愛でながら、ふらふらと歩けばピカソ君に出会った。画材を買った帰りらしく、大きな買い物袋を持っていた。気をつけてと言えば、おうと返事をされてお前もなと返された。
 公園に着くと人の気配があまり無かった。それはワタシがそういう公園を選んだからである。紅葉する落葉樹が多くてこの時間に静かな場所をと考えて、ワタシはこの公園を思い付いた。
 赤や黄色に色付く葉を眺めながら歩けば、ふと前方に人影が見えてきた。誰だろうとよく見れば、黒い着物を着た男性。見知った人物だった。
「江戸川君じゃないか。」
 そう言って近寄れば、江戸川君がワタシに気が付く。
「コナン君か。」
 隣に立って江戸川君の見ていた風景を見る。それは黄色く色付いたイチョウの木がよく見える場所だった。その木は大きく、少し遠目のこの場所からよく見えた。恐らく、此処より少し後ろとか少し前とかではこの木の美しさが減ってしまうのだろうなと思った。
 そんな丁度良い場所に立って、ワタシは息を吐く。紅葉とはこんなに心を打つものだっただろうかと思考の隅で考えた。
「コナン君は如何して此処に来たんだ?」
 そう言った言葉はまるでワタシには向いていないかの様だった。きっと事実としてそうなのだろう。しかしそれでもワタシは答える。
「気分転換だよ」
 ワタシの答えに江戸川君はそうかと語る。
「最近、杉田先生の所に居るのを見かける。しかし君に身体的な異常は無い様に見えるな。なら何か医学について勉強でもしているのか。」
 そこまで言った江戸川君はこちらをじっと見た。今度はワタシに問いかけているのだろう。
「そうだ。杉田先生の手助けになればと思ってね。ワタシ達はよく怪我をするのに、医者はあまり居ないだろう?少しでも負担を減らせればと考えたんだ。」
 江戸川君はそうかと相槌を打った。そこでこの話は終わりだろうとイチョウへと視線を戻せば、ぽつりと江戸川君が言う。
「俺は書かないといけないな。」
 江戸川君を見れば、どこか穏やかな顔をしていた。江戸川君は続ける。
「コナン君がそう頑張るなら、俺は執筆を進めよう。」
 そう言って微笑む江戸川君は晴れ晴れとしていて、そうかと思いつく。恐らくこの公園に江戸川君が居たのは、何か煮詰まっていたからなのだ。それならとワタシは嬉しくなった。
「ワタシだって負けてはいられないね。」
 笑えば、江戸川君も笑ってくれる。散歩に出て来て良かったと、心から思えたのだった。

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