君と僕との水没

笠♀今♀/君と僕との水没/一人称と口調はそのまま。身長は-10をイメージしてますが、特に描写はありません。
タイトルは脳味噌ナイチンゲール化計画(旧自作お題サイト)より。


 溺れるような恋をした。

 そっと触れる。今吉は耐えた。笠松はそっとそのまろい肌に触れた。
「擽ったいわあ」
「ごめん」
「弱気なんてらしくないで」
「でも、嫌わたくねえから」
 手を繋ぐのは嫌だったか。笠松が問いかけると、いやと今吉はゆるく首を振った。
「外だから、躊躇しただけや」
 場所は街中のカフェだ。受験勉強の合間に会って、会話していた。そして、手を繋ぐような雰囲気になった。それだけだ。
「家だったら、いいのか」
「まあな。ハグもええで」
「それはまだ早いだろ」
「うーん、女性が苦手なんは厄介やな」
「ごめん」
「謝らんといて」
「ごめん、」
「だから」
「ごめん、好きなんだ」
 たまにどうしようもなく、弱気になるぐらい。好きだ。笠松の真っ直ぐな声に、目に、今吉はぽぽぽと顔を赤くした。
「このっ、極端!!」
「悪いかよ」
「悪くないけど、たまに、困るわ」
 いつも可愛い笠松が、こんなに格好いい。そう今吉が呟くと、いつも可愛いなんて言われたことないと笠松は不満を述べた。
「いつもクールだの、王子様だのって言われる」
「そら、見る目がないわ。海常ってみんなそんな事言うん?」
「わりとな。今吉こそ、どうなんだよ」
「んー、腹黒メガネ」
「単なる悪口じゃねえか」
「まあ、ワシのことよーく知っとる諏佐が居るし、部活の面々も単なる腹黒メガネじゃないって知ってくれとるし」
 別に気にしてない。今吉がコーヒーカップを撫でながら、顔を上げると、笠松が不満そうに眉を寄せていた。
「諏佐はそんなに頼りになるか」
「え、ああ、まあ程々に?」
「そうか」
「いや、嫉妬するん? そこで?」
「悪いかよ」
「学校が違うことぐらい、許容せい」
「やだ」
 今吉の、一番は俺がいい。笠松が柔らかな手で、机の上の今吉の手をキュッと握ると、外だって言うとるやろと今吉は赤い顔なんとか隠そうと顔をそらした。
「それに、その、部活の面々に嫉妬するなんて、当たり前やし」
「ならいいだろ」
「笠松はもっと男前やもん」
「可愛いだろ」
「うん、可愛いで」
 可愛くっておかしくなりそう。今吉がとうとう片手で目を覆った。
「ほんま、何でワシの恋人はこんなに可愛いん?」
「お前も可愛いだろ。それもとびっきり」
「ウソやろ」
「本心だな」
 悪食め。そう今吉が罵れば、笠松は知ったことかとゆるりと繋いだ手の指を絡めたのだった。


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