宣誓、あなたに恋をします

森今♀/宣誓、あなたに恋をします/告白/ちょっぴりずるい森山君と恋愛慣れしていない今吉さん
タイトルはシングルリアリスト様からお借りしました。



 ヒールのあるサンダルを履いて、水溜りに飛び込むの。
 雨上がりの街の中。きみが好き。偶然出会った友人にそんなことを言われた今吉はいつもは細めているつり目を大きく瞬きして、それからへらりと笑った。
「何の罰ゲームなん? 」
「ひどい! そんなのじゃないのに」
 そうやろか、今吉は長い髪を揺らして笑った。
「だって、森山ってそういう役回り、よく回ってくるやろ? 」
「まあ、罰ゲームの頻度は高いよね。でも違うよ」
「あんま否定すると嘘くさいで? 」
「ええ、じゃあどう言えばいいのさ」
 森山はそう言って眉を下げる。情けないなあと今吉は腕を伸ばして彼の頭をわしわしと撫でた。身長差は10センチないぐらいだろう。ヒール付きのサンダルを履いた今、彼女にはそれぐらいの事は容易かった。
 しかし森山はため息を吐いて彼女の手を掴んで頭から離した。今吉は少し不満そうに声を上げたが、森山はそれを聞かなかった。ただし、何に対してかわからない謝罪をした。
「ごめんね」
「なんで? 」
「……何でだろ」
 不誠実だからかな、なんてらしくないことを言う森山に今吉は大きく目を開いて驚いた。そして今度は心配そうに森山の顔を覗き込む。申し訳なさそうな顔をしている森山に、今吉はまた驚いた。
「どうしたん」
「いつも通りだよ」
「ウソやろ」
「きみにとっては嘘じゃないよ」
 今吉はそこで困った顔をして告げた。
「なに拗ねとるん。ってワシの所為か」
「拗ねてなんか、」
「ちゃんと受け止めなかったからやろ」
「……違うよ」
 ダウト、と今吉はベビーピンクの唇で突きつけた。息を吐いて、今吉は頭が痛そうに額へと手を当てた。
「えっと、それでホンマに? 」
 無言で顔を赤くする森山に、今吉は確認するように言った。
「運命のナンパとはちゃうの? 」
「えっと、今吉のことはずっと好きだったよ」
「おおっと、マジや」
 今吉は頭を抱える。森山が不思議そうに彼女の顔を覗き込もうとすると顔をそらした。森山がまた覗き込もうとすると、また顔をそらす。不思議そうに森山が彼女を観察すると、艶やかな黒髪から覗く白い耳がほんのり赤く染まっていた。
「もしかして、照れてるの? 」
「わるいか」
 今吉はぶっきらぼうに答えるが、森山は悪くないよと嬉しそうに笑った。
「意識してくれてるんだ」
「……意地がわるいで」
「そうかな? 」
 そして森山がそっと今吉の耳を触ると、バッと勢いよく今吉が顔を上げてすぐに一歩下がった。その顔は赤く、目は潤んでいた。口をぎゅっと結んでいる彼女の姿に、森山は殊更嬉しそうに笑って、良かったと呟いた。
「じゃあまた告白するね」
「な、なんで?! なんでそうなるん?! 」
「だって脈アリなんでしょ? 」
 頬を染めて嬉しそうにする森山に今吉はわなわなと震え、すぐにもう知らんとその場から逃げたのだった。


- ナノ -