02 衝撃の事実



あれから一晩経って、ワシは着替えると母さんと一緒に家を出た。バスと電車に揺られて、そこでカフェが待ち合わせ場所だと聞く。
バスから降りて、母さんと並んで街を歩いて、通りから外れたカフェの前に立つ。こじんまりとした外観をしている。現在父との約束の三十分前で、カフェの中に父はいないはずなのに、嫌な緊張をした。しかし母さんは気にしないらしく、カフェの扉を開いた。母さんはワシを先に入れた。そして目を見開く。店内は意外と広かったが、そこに驚いたわけじゃない。

「笠松クン達?!」
「今吉?!」

ワシの苗字を叫んだのは8人の見知った顔ぶれ。笠松クン、福井クン、春日クン、伊月クン、花宮、降旗クン、高尾クンとその妹らしき女の子。妹さんらしき女の子は見知ったとは言わないが、それでも高尾クンとよく似ていて兄妹だとすぐに分かった。

「なんで皆おるん?」
「いや俺たちも何がなんだかなんですよー」

ワシの思わず漏れた声に反応したのは高尾クンで、流石はHSだと納得する。というか妹さんを除いたら全員PGだ。もうそんなことを考えるぐらい現実逃避に脳味噌が走っている。

「ねえ、今吉もー?」
「何が?」
「父さんに会わせるって話」

その言葉に目を見開く。もう糸目とかそんなことしてる場合じゃない。それなりに優秀な頭がトンデモない予想を導き出そうとしている。
それはほぼ全員が思っていたことらしく、揃って遠い目をするのを視界に収める。

(いやいやいや、んなわけないやん)

目を糸目に戻して、とりあえず母さんと同じテーブルにつこうとして母さんを探して、唖然とする。なんか8人のご婦人方で座ってる。4人席をくっつけて8人で仲良く座り、談笑している。しかもとても楽しそうである。謎の置いてけぼり感に流石に立ち尽くしていると福井クンが、まあ座れよと言ってくれた。流石はアンセルフィッシュ。
席は一番端で春日クンの隣、前には笠松クンが居た。ちなみに春日クンの隣は福井クンだった。ワシと逆の端には妹さんと花宮が座っていて、あれは大丈夫なのかと思っていると、笠松クンがあの妹はなかなか強いと遠い目をしていた。ああ、残念なのか。何が残念かは現時点では分からないが。

とりあえずカフェオレを頼んだ後に全員でバスケのことや学校のことを話す。全員が父の件に触れなかったのはやはり会話が現実逃避だからだろう。
そんな中で妹さんはあまり会話に入らずに話を聞くことに専念してるようだった。男ばかりだからだろうか。聞くことに専念といっても、絶妙な相槌やリアクションにHSさを感じた。カウンセラーとか向いてそうである。残念らしいが。降旗クンは全体的にビビっていて大丈夫かこの子と思った。そんな降旗クンの心の支えは同校の伊月クンなのだろう。それを伊月クンは理解しているらしく、頻繁に会話を交わしていた。花宮は話しかけられない限りは黙ってコーヒーを飲んでいた。多分不機嫌とか色々が一周回って悟りの境地に立っているのだろう。頑張れゲス。高尾クンはほぼ全員に話しかけ続け、さらに爆笑のターンが多い。ワシもどちらかといえば大草原タイプなのでもっとこういう場でなければ一緒に爆笑したかった。笠松クンと福井クンは全員に気を配っていて、流石はキャプテンシー溢れるキャプテンとアンセルフィッシュだと思った。そんなワシは春日クンとクイズを出し合っていた。面白可笑しいものではなく、受験勉強らしい堅苦しいクイズである。一応、春日クンの受験校を聞いてそのレベルのクイズを出し合っている。
カフェオレが運ばれてきて、笠松クンに意外だなと言われた。その言葉に、普段はブラックだが疲労回復がしたいと話すと当然思い当たる点がある笠松クンは遠い目をした。福井クンにも飛び火していた。
そんな現実逃避をしているとからんとカフェの扉が開く。そちらを見ると大人の黒髪男性と赤い髪の。

「赤司クン?!」
「…父さん、どういうことだい?」
「すまないね征十郎。先に母さんたちと話があるから、あちらに居るといい」

男性は優しい顔をしていて、良い人オーラが異常だった。赤司クンはこちらのテーブルに近づくと、面々の顔をゆっくりと見て、近くの椅子に腰掛けた。

「あー、赤司クン、こっち来いや」
「すみません、少し混乱してまして」

あっ魔王でも混乱するんだと思ったのは数人。口に出してしまったのは高尾クンと降旗クン。高尾クンはあっちゃーと軽かったが、降旗クンは恐怖で泣きそうだった。本当に大丈夫かこの子。
婦人方と男性の話はすぐに終わったらしく、そろってこちらに近寄ってきた。

「皆、大事な話なのだけれど」

そう切り出したのは男性だ。

「実はここにいる全員は家族なんだ」
「…父さん待ってください」

赤司が流石に焦った声を出して言った。貴重だなと思っていると花宮は遠い目をしたまま失神しそうになっていた。頑張れゲス。
男性と婦人方の話によると、婦人方は時期は違えどそろって男性が好きになり、婦人方はとっても仲良くなり、一夫多妻で結婚したかったが叶わず、男性が止めるのを聞かずに阿弥陀で今は故人の赤司クンの母親が代表で結婚することになり、男性と婦人方は家族で住むべく奔走してきて、やっと家族で住めることとなった、とのこと。わけがわからない。

「えっ何、ちょっとよく分からないんですけど」
「兄さん落ち着いて。愛の形は様々なんだよ」
「妹さん受け入れるの早いですねッ!」
「降旗に同意の一票きたこれ…」
「何もきてないよー落ち着いてー」
「ああああああああ」
「花宮大丈夫か。ほんまに大丈夫か」
「頭が痛え…」
「楽しんだモン勝ちな気がしてきた」
「福井それ一周回ってるねー」

とりあえず受け入れるのが早い妹さんに敬礼。これはきっと全員が必ず受け入れなければならないのだろう。特に頑張れゲス。そういうワシもけっこういっぱいいっぱいだが。

「…つまり、僕たちは血の繋がった兄弟ということですか」
「そうだよ征十郎。」
「そして私たちはあなたたちの母親よ」
「すみません自己紹介しませんか」

赤司クンの一言で簡単に名前だけの自己紹介が始まって、すぐに終わる。一応子供勢も自己紹介をした。

「それじゃあ行くわよ」
「えっと高尾のお母さん、どこに行くんですか」

伊月クンの問いかけに、高尾兄妹のお母さんは鋭く言い放つ。

「美鶴さんと呼びなさい。長くて非効率的だわ。これから行くのは全員の新居よ」

…はい?



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