森の中、休憩中。
「Nさん」
呟くようなあたしの声に、Nさんは振り返った。
「どうしたんだい」
「あ、」
確かに自分で口にした筈なのに、何故言ったかわからなくなって、あたしは開いていた口を閉じた。
「アイリス?」
Nさんが近づいてきて、そっと屈んでアタシと目線を揃えた。そして。
「泣きそうだよ」
その言葉で、あたしの頬に涙が幾つも伝う。ぽたぽたと服に染みを作る、涙。堰を切ったようなそれにNさんは少しだけ目を見開いた。そしてぎこちなくハンカチであたしの頬を撫でて言う。
「ごめんね、僕はこういう時にどうしたらいいのかわからないんだ」
困った顔に、あたしはまた涙を流す。どうしてあたしは泣いてるんだろう。ただ、涙が後から後から零れる。
「泣き止んでおくれ」
声を発せずにあたしは無音で涙を流していて、Nさんはますます困った雰囲気であたしの前に居る。
「お願いだから」
Nさんの困った顔に少しの悲しさが浮かんだ時に、あたしは悟った。この涙はNさんの涙だ。
(あたし、Nさんの代わりに泣いてるんだ)
散々野生児だと言われたことを思い出す。困ったな、こんなことまで野生児だなんて。
(感が良すぎるよ…)
無自覚で悟る
(Nさん、泣きたいなら泣いていいんだよ)