あの日、きみは笑っていた。だから安心してしまったんだ。
「アイリスね、チャンピオンになるの」
手が届かなくなるなんて、思わなかったんだ。
『在りし日の微笑みを』
その日はやけに晴れていて、新緑のきらめきに目が刺されそうだった。
アイリスとはおもちゃの指輪を交換した関係だった。幼い彼女との若葉のような幼い恋はぼくにキラキラとした輝きを与えた。
そしてアイリスにも何かを与えられていたと思う。一方通行ではないと感じていた。
当然、アイリスはまだ幼いからこの恋は勘違いなのかもしれなかった。それでも、今の温かなぬくもりを、ぼくは選択した。
それは朝のことだった。朝早くサンヨウカフェにやって来た彼女の、背後の新緑が目に刺さるような、そんな時。彼女は言った。
「アイリスね、チャンピオンになるの」
ぼくは口を半開きに、目を丸くしていたと思う。幼い彼女の戯言だと思えなかったのは、その真剣味を帯びた柔らかな目が、もう幼い少女ではなかったからだ。
彼女は幼いなんてことはなく、もう立派な女の子だったのだ。
唇が乾く。彼女は微笑んでいる。ぼくは何かを言おうとする。彼女は言う。もう終わりにしなくちゃ。
「な、んで…」
「けじめなの、アイリスはもう小さくないの」
大人に、ならなくちゃ。と。
彼女はそう言うと一歩後退り、くるりと後ろを向いて走り去る。
ぼくは只々唖然呆然としていた。
恋の終わりは突然やって来たのだ。
titl by.空想アリア 終焉