満月神社の愛され子


満月神社の愛され子/第三者視点


 かの神は言った。
『私はお前が好いのだ』
 故に、彼は巫女なのだと。

 満月神社は中規模の神社である。家族で全てを担えるぐらいには小さな神社だが、そろそろアルバイトを雇っても良いのではと思わせるぐらいには忙しい面もある。しかしそれを家族が拒むのは、その神社に祀られた満月神の事情があるからだ。
 満月神はマンゲツノカミと呼ばれるが、かつてはミツキガミと呼ばれ、大元を辿れば実付神となる。読んで字の如く、実に付く神であったのだ。時代が変わるのにつれて名が変わっても、それ如きで神の本質は変わらない。人の世が移ろっても、それ如きで神の本質は変わらない。周りに溢れんばかりにあった果樹園がささやかなものになっても、それ如きで神の本質は変わらない。もうお分かりだろう。満月神は時代を経て、実そのものよりもそれに通ずる字を纏った、己を始まりの日から祀ってきてくれた実渕家を気に入ったのである。
 そうして幾千もの日々が流れたある日、満月神にとって特別な子が産まれた。否、語弊がある。その魂が母の腹に宿ったその日、満月神はその子が己にとって特別であると悟ったのだ。満月神は子を宿す母を護り、あろうことか出産を境内でさせた。人が行う命名にすら口を挟み、子に相応しい名を付けた。その子の名は、実渕玲央。性は男であった。
 満月神は彼を巫女にすると取り決め、周囲はならばと玲央に様々な仕来りと習い事を習わせた。玲央はそれに反発するどころか、巫女になるらばと己の美しさを磨いた。もちろんそんな玲央を悪く思う者もいたが、玲央は決して挫けなかった。それは玲央にとっても満月神が特別であるからであり、それは決して恋愛感情などというものではなかった。満月神と玲央は親愛という強固な縁を築き、それはお互いを特別な存在だと信じて疑わないほどであった。
 やがて玲央が正式に巫女となった日、人々は皆して首を垂れた。満月神からの深い加護を受け、籠(加護)に覆われた彼は神性すらその身に纏う。それは正しく神域であり、人々は只々垂れた首を上げることなど出来なかった。

 巫女になっても玲央は学業や習い事に勤しんだ。そんなある日、彼は満月神の勧めで両親にとある場所へと案内された。そここそが狐堂。未来の実渕玲央が運命的な出会いをする場所である。
 玲央はそこの旦那様である白狐神にも好かれた。満月神とも仲が良いという彼に玲央は好感を持った。白狐神の二つの式にも好感を持ち、彼はやがて用事の合間を縫って数日に一度、狐堂を訪れた。
 ある日のこと、狐堂へと向かう途中見たこともないほどの瘴気を感じて驚き、走って狐堂へと入ると濃い瘴気を纏った少年に出会った。白狐神によって浄化をした彼の名を宮地清志という。これがありとあらゆる不幸を引き寄せる少年と、神によって深い加護を受けた神性すら持つ少年の出会いだった。

「私は実渕玲央。あなたは?」
「俺は、宮地清志だ。初めまして。」


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