降旗光輝の転


降旗視点


 紙園中学に転校して一週間。俺、降旗光輝はかつては信じられなかったほど、普通の男子中学生として学校に通えている。いや、それには語弊があって、至って普通の極々平凡なんかではない。
(今日も学校に妖が溢れているなあ)
 親のツテによって入学した紙園中学は信じられないほど、良く無い妖や悪霊といったこの世成らざるモノの中でもあまり良く無いモノがわんさかと集っていた。
「光(コウ)ちゃんはこれから帰る?」
「あ、高尾。うん。そうするつもり」
「和成でいいって。俺はちょっと寄る処があるからまた明日!」
 バイバイと手を振りながら走り去る高尾の背中には黒い大きな鳥。あの鳥は動物図鑑で見たことがある気がするが、詳しくは無いので種類なんて分からない。
(今日も今日とて憑かれてるな、高尾……)
 元気そうなので特に何も言うつもりはないけれど、やっぱり良いものには見えない。危ないなあと思いながら通学カバンを持ち上げて教室から出た。

 教室を出て歩いていると、ふと前方に誰かと話す高尾が見えた。声をかけようとして、相手を見て驚く。相手は三年の今吉翔一さんと笠松幸男さんだったのだ。
 今吉さんも笠松さんも特に何かあるわけではない。でもそれはあくまで一般人から見た視線であって、俺から言わせてみれば特異な人たちだ。笠松さんは常に温かく柔らかそうな結界を身に纏っていて、守護霊のそれに似ているのに守護霊は見当たらない。今吉さんに関しては、逆だ。今吉さんには何もない。妖の匂いもなければ悪霊の匂いも一切とて無い。この学校はこんなにもこの世成らざるモノに溢れているというのに!

 結局、三人は三年の教室に入って行った。俺は声をかける気になんてなれず、帰ろうと歩き出した。

 カツカツと早足で歩く。しくじった。まさか猫を撫でたらこんなことになるなんて思わなかったんだ。
(うわあああ!来るなああああ!)
 俺は全力で走り出す。現在後方、明らかにヤバい黒い泥に追われてます。どういうものかなんて全くわからない、嘘、多分あの猫関連です。はい。
「光ちゃん!」
「っ!高尾?!」
「だから和成だって!」
 高尾から伸ばされた手を思わず掴む。するとグッと引っ張られ、足がもつれそうな程早く走りだした。もう少しスピードを下げてと言おうとしたが口を開けば舌を噛みそうで出来なかった。

「はいストーップ!」
「うわあああ!」
 急に止まり、俺がつんのめるとぼふりと大きなクッションに当たるような感覚。なんだこれと思うと目の前が黒い。まさかと青ざめて見上げれば、そこには高尾に憑いていた、あの。
「?!」
「タカアヤシさんきゅ。光ちゃん大丈夫?」
「えっ、あ、うん、だい、大丈夫」
「そっか」
 高尾がタカアヤシと呼んだそれから離れる。タカアヤシ、鷹妖、そうか思い出したこれは鷹だ。大きくて黒い、鷹。
 高尾と高尾の背後にタカアヤシを憑けてそっと歩き出す。歩んだ先には暗い赤色の洋館、ステンドグラスが散りばめられた其処、立て掛けられた看板には狐堂とあった。
「ようこそ、光ちゃん。お出で、お出で。光ちゃんのことは大旦那様が待ってるぜ」
 俺はニカッと笑う高尾に誘われるが侭、洋館の敷地に踏み込んだ。


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