ブリギッドが料理をする音が聞こえる。それを聴きながら、俺は書物を広げた。今日やるべき項はここの筈だ。

しばらくペンを走らせていると、窓から差していた日差しに影が出来ていた。これはどうやら珍しい来訪者のようだ。俺が窓を見ると外にはロキが居た。俺は窓を開ける。

「やっほー」
「久しぶりだなロキ。トールと喧嘩でもしたか」
「全然違うと言いたいけど、残念ながらさして違ってもいないんだよね。」
「そうか。とりあえず玄関から入れよ。」

頷くロキを確認してから窓を閉めて書物を手早く片付けてから玄関に向かう。途中でブリギッドにロキのことを伝えるのを忘れずに。

キィと僅かな音を立てて玄関の扉を開くと、大人しく玄関前に立つロキが居た。室内にロキを通すと、料理に挌闘してたブリギッドが顔を見せてお茶を出そうかと尋ねたので、忙しいだろうから俺がやろうと申し出た。

「茶に拘りはあるか?」
「いや別にないよ。てか知ってて聞いてるデショ」
「そうだな。じゃあ普段飲む茶葉にしよう。」

俺はブリギッドが使っている台所とは別の簡易キッチンに向かう。その途中で思い出したかように俺は言った。

「言いたいことを整理しておけよ、ロキ」
「…了解」

決まり悪そうなロキは普段の何をしてもへらへらとしてる姿とは似ても似つかず、何時見ても可笑しいと隠れて笑んだ。

紅茶の用意が出来たので、ブリギッドが作ったチョコチップクッキーと共にロキが居るリビングに運んだ。考え込んでいたロキは俺に気がつき、へらりと笑った。

「相変わらずのクッキーだね」
「美味しそうだろう?」
「まあ味の好みはそれぞれだよね」
「たしかにそうだな。口に合わないなら無理して食べることはない。」
「分かってるならいいさ」

ロキは俺が運んだ紅茶を飲む。俺も椅子に座って紅茶を一口飲んだ。いい出来だろう。

「それで、トールと何があったんだ?」
「何でトール限定…」
「本気で言ってるか?」
「そんなわけないよ。」
「で、何があったんだ?」

子どもに言うようにそう言うと、ロキは目を逸らしながら口を動かす。

「トールの機嫌を損ねた」
「ほう、トールの。」
「ちょっとオーディンにイタズラしたことを話したら…」
「それで?」
「トールに怒られた」
「注意されるのは何時ものことだろう」
「違うよ。なんかもう、静かに怒ってた…」
「ふむ。」

ため息を吐くロキに、トールなどの数少ない友人と何かある度に俺のところに訪ねなくてもいいだろうと思いながらもそれをおくびにも出さずに口を開く。

「ちなみにその出来事は何時のことだ」
「…昨日」
「本当にか」
「ゴメン嘘。四日ぐらい前…あれからトールは口をきいてくれない…」
「お前…」

思わずため息を吐きそうになるのをぐっと堪え、口を開く。

「早く謝ればいいだろう」
「それが出来たら苦労しないよ」
「トールはきっとお前の為に怒っている。なのに謝って許してもらえないことはないさ」
「…そうかなア」
「そうだろうとも。トールは寡黙で優しい。それに君を大切に思っている。それでも許してもらえないと思うなら、誠心誠意謝ればいい。気持ちは伝わる筈だ」
「…誠心誠意、か。苦手だなア」
「演技はバレるからな」
「分かってるさ。トールだしね」

ロキはがたりと立ち上がる。

「謝るコトにするよ」
「そうか。それがいいさ」
「毎回世話になるね」
「全くだ」

笑い合うと、ロキを玄関に送る。

「じゃあねオグマ。また何かあったら来るよ」
「歓迎しよう。だが君に頼りきられるのは気分が悪い」
「わかってるって。じゃ、バイバーイ」
「気をつけてな」

神具で飛び去るロキを見送った。青い空にロキの姿が見えなくなると、俺は室内に戻る。

「あ、お兄ちゃん!シェパーズパイが出来たよ!」
「そうか、それなら食べよう。書物を片付けてくる。」
「うん分かった。用意するね!」

パタパタと忙しく動くブリギッドと微笑ましく見ながら、ロキはまた来るんだろうと思って苦笑してしまう。

(全く、面倒な奴だ)

「ブリギッド、やっぱり書物は後で片付けることにした。手伝うことはあるか?」
「いいの?じゃあ、お皿の用意お願い」
「了解」





知人関係
(トールごめん!)
(パイは俺が切り分けよう)

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