深緋の籠番外/バラといばら/春休み強化企画より


 教会の国。笠松と今吉がクエストに訪れ、魔物討伐を終える。依頼主への報告をしていると、陽泉の拠点が近いことに今吉が気がついた。なので、ついでにと、陽泉の拠点へ向かった。
 やあ、と館で出迎えたのは氷室だ。後ろでは劉と藤紫の神こと紫原が何やら運んでいる。ソファのようだ。
「今、拠点の大掃除してたんだ。埃っぽくてごめんね」
「いや、急に訪ねてわりぃ」
「藤紫様も働かせとるんやね」
「まあね」
 氷室は、そうだ渡したいものがあったんだと、笠松と今吉を温室に案内した。
 温室は暖かい。
「ここの世話を任されることになってね。まあ、しばらく鍛錬しないと任務に戻れそうにないから」
「せやろな」
「で、深緋の天使である今吉さんに、渡したいものがあるんだ」
「ワシに?」
 きょとんとする今吉と、眉を寄せる笠松。そんな二人にくすくすと笑いながら、園芸ハサミを手に氷室は奥に進む。そして、待っててとベンチに二人を座らせて、温室の更に奥へ行ってしまった。
 キョロキョロと温室内を見ると、相変わらず花が咲き乱れていた。教会の国は寒冷で、魔法植物でさえ限られた種しか育たない土地だ。故に、この華やかな花々はまるで絵物語のようにも見えた。
「お待たせ」
 氷室が持ってきたのは赤いバラの花束だった。棘は取ったからと、今吉に渡す。その真っ赤な、深紅のバラに、今吉はふわりと微笑む。
「綺麗やな」
「うん。少し、匂いもあるよ」
「控えめなんやね」
「そういう種ってこと。笠松さんにはこっちをどうぞ」
「棘、か?」
 今吉の持つ赤いバラからとった棘の入った革袋だった。
「このバラの棘は毒があってね。薬剤師か錬金術師に頼めば、毒を精製してもらえるよ」
「いいのか」
「もちろん。助けてもらったお礼さ」
「助けてなんかないぞ」
「それでもさ」
 目を取り戻し、さらには、藤紫の神の天使になれて、嬉しいんだ。そう笑う氷室に、相変わらず天使の思考は分からんと笠松は息を吐いた。
「なあ、バラの花にはなんか効果あるん?」
「特にないよ。ああでも保存魔法はかけておいたから、暫く愛でられると思う」
「そら深緋様も喜ぶわ」
「良かった」
 楽しそうな天使たちに、笠松は分からんと繰り返し思ってから、革袋の口をしっかり紐で結んだ。
「じゃあ大掃除に戻るよ。二人は好きなだけ温室に居ていいからね」
「ありがとさん」
「しばらく休ませてもらう」
「飲み物と軽食ぐらいは後で持ってくるから」
 むしろ泊まってくかいと言われて、笠松は宿を決めてないから助かると提案を受け入れたのだった。



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