深緋の籠番外/夜の森とヒカリゴケ/掌編


 夜。暗い森。ランタンを灯して、笠松と今吉が歩いていた。
「こっちか?」
「ん。せやせや」
 夜しか姿を見せない、ヒカリゴケ。そう呼ばれる魔法植物の採集クエストを受けた二人は、慣れた様子で夜の森を進む。
「笠松、怖ないん?」
「特に思わねえな」
「そうなん?」
「お前は深緋がいるから平気なんだろ」
「まあ。ワシに何かあればすぐ来るわな」
「じゃあ問題ない」
「んー、そういうことにしたろ」
「おう」
 スタスタと、木の根も石ころも苦にせず、二人は歩く。やがて、ふわりと青い光が見えた。
 あ、ここ。今吉が細めていた目を開く。
「綺麗やな」
 ほうっと息を呑む今吉に、さっさと採集するかと笠松は進む。数歩進んでから、歩くのを躊躇う今吉に手を差し伸べた。
「ほら」
「ん」
 手を重ねて歩き、採集に丁度良さそうな大きさのヒカリゴケを探し、見つけると試験管に採取した。
 しっかりとコルクで栓をすると、笠松はついでにと別の小袋にヒカリゴケを数個詰めた。
「それ、どうするん?」
「胞子を瞼に塗ると夜目が効くようになるからな」
「はー、そうなんか」
「ランタンが持てない時とか、夜襲とかで役立つんだ」
「成程」
「ただ、目に入ると痺れる」
「怖ない?」
「魔法植物はそんなモンだろ」
「まあ、そうとも言うけどなあ」
 そろそろ帰るぞ。笠松の言葉に、今吉はうんと頷いた。白い手が重なって、離れない。笠松の手は、相変わらずたこのできた武人の手だった。



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