深緋の籠番外/掌編/簡易治癒魔法


 今吉は森の中、清らかな泉に入る。沐浴をするためだ。戦いによる血と泥を落としていると、笠松が洗ったらこっち来いと呼んだ。今吉は素直に近づく。
「何やの?」
「怪我してんだろ。見せろ」
「ええ、なんでバレたん?」
「見てりゃ分かる」
 笠松は今吉が怪我した足を、手持ちの布で圧迫止血し、簡単な治癒魔法をかける。それを見て、今吉は驚いた。
「笠松って治癒魔法使えたん?」
「初級(この程度)ならな。ソロや少人数パーティでは必須だ。まあ、下手だからあまり使いたくはない」
「いや、すごいわ。ワシも覚えたい」
「なら大きな街にある狼同盟の宿だな。独学ならそこがいい」
「図書館とかじゃないん?」
「本が多すぎて目的の本を見つけるのに無駄な時間がかかるし、専門書すぎて初心者には向かねえ」
「あー、なるほどなあ」
 今吉は納得した様子だ。笠松はそれを見て、お前は頭が良くて器用だからすぐ覚えるだろうなと言いつつ、何度目かの治癒魔法で今吉の怪我を治した。
 きらきらと輝く赤いペンダントが光る。わっと今吉が声を上げると、ふわりと赤司がやって来た。
「天使が怪我をしたんだって?」
「筒抜けやなあ」
「治療なら済ませた。何かできるならやってくれ」
「基本的に向かない」
「だろうな」
「せやな」
 ほぼ同時の反応に、赤司はむっと膨れつつ、今吉の肩にべったりと体を寄せてウトウトし始めた。気ままやなあと今吉は言いつつも、赤司の頭を撫でる。相変わらずだなと、笠松は息を吐いて、暫く休憩すると決めたらしかった。



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