深緋の籠番外/掌編/妖精使いにも分からないことがある


 今吉は明け方、宿屋から出た。笠松には既に用件を伝えている。たったと石畳の道を進む。
 やがて噴水のある広場に着くと、今吉は目当ての人物を見つけて、おはようさんと声をかけた。
「わ、今吉だー」
「元気みたいやな」
「もちろんだよお」
 春日がにこりと笑みを浮かべる。今吉も微笑みを浮かべて、彼の隣、噴水の縁に座った。
「で、突然呼び出してどうしたん?」
「んー、ちょっとねえ」
 春日はそう言うと、短く詠唱し、ぽんと妖精を一体呼び出した。
「ん?」
「この子、辛そうでしょ? 何か原因分かるかなあって」
「いや、ワシに言われてもな……」
 しかしそれでも今吉は妖精におはようと声をかけた。妖精はふらふらとしながらぺたりと今吉の手に乗る。
 あつい。今吉は呟いた。
「風邪、ひいとるんちゃう?」
「うん。たぶん。でも、風邪でこんなに辛そうになるかなあ」
「それもそうやね。秀徳に連れてったらどうやろ」
「秀徳って病院の? いいのかなあ」
「あそこの人らなら、ワシが話を通したろか」
「わ、いいのー?」
「勿論や」
 嬉しいな。春日が安心したように笑う。油断はならないで。今吉は妖精を見ながら言う。
「絶対治せるとは言わん。でも、秀徳の知識なら突破口が見つかるかもなあ」
「うん。そうだねえ」
 良かったね。春日が妖精を撫でる。妖精はぽやっとした目でコクコクと頷いたのだった。



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