深緋の籠番外/あなたと共に生きるためなら


 今吉は朝の祈りを欠かさない。天使はそういうものとは思いつつも、笠松は何となく気になる。笠松自身はそういった宗教要素とは、今吉と出会うまで、あまり関わりがなかった。祈って何になるんだ。祈るのは両手が塞がるだけじゃないか。笠松には分からない。

「笠松」
 今吉が顔を上げた。祈りは終わったらしい。朝飯を食いに行くぞ。笠松は今吉を連れて、宿の食堂へと向かった。

 食堂で簡単な食事を済ませると、クエストボードを見に行く。今吉もちらちらと見ては、気になる依頼は無いかと気にしていた。
 今日のこの宿では、魔物の討伐依頼が多いようだ。狼同盟の宿ではないので、笠松と今吉という少人数パーティ向けの依頼は少ない。
「あ、笠松。あれ」
「ん? 採取クエストか」
「ミネラルベリーは海沿いに自生してるんやろ? 久しぶりに海に行きたいなあって」
「いいんじゃないか? ここからだとそう遠くねえし」
 笠松が、受領するかと、カウンターに声をかけに行った。

 山間の宿場町から、海沿いの村へと向かう。山道をザクザクと歩く。前なら今吉のために途中で多くの休憩をとったが、今では笠松のペースについて行けるほどになった。それでも、もちろん休憩はとる。緊急の依頼ではないので、そう焦ることもない。
 途中の泉で疲れた足を癒やす。念の為にと笠松が今吉の足を見たが、怪我は見当たらなかった。
「怪我したら無理せず言えよ」
「わあかっとるわ」
「ならいい。お前が無理するのが一番怖いんだ」
「ん、ありがとな」
 そっと首元の赤いペンダントをなぞる。癖となっているそれに、深緋を呼ぶと獣が騒ぐからやめろよと笠松は止めた。
「呼びはせんわ、でも、なんかなあ」
「なんだよ」
「笠松が優しいなあって、深緋様にも言いとうなるんや」
「ふうん」
 分からないな。笠松には神へのヨスガがない。鬱金の神に気に入られていたようだが、どうや彼はまだ若かったらしく、笠松を天使にできなかった。
 それはそれで幸福だったな。笠松は遠い目をした。もし神子になっていたら、どうなっていたことだろう。
 でも、と思う。神子は、天使は、不老不死だ。今吉はもう、これ以上育つことも老いることもない。死ぬことだって、無い。笠松は老いる、死ぬ。どうしても、今吉を置いて逝く。
 だったら、鬱金の神の天使になってもいいと思ってしまうことがある。笠松は今吉を置いて逝きたくはない。この、案外繊細なやつを置いていけなかった。
「笠松ー!」
 水魔法でボールが作れた。今吉はぷわぷわと水魔法で水のボールを浮かばせて、遊んでいるようだった。



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