深緋の籠番外/名前のこと/掌編


 俺の天使(スカーレット・ミスラ)、天使。そう深緋(スカーレット)様が呼ぶ。しかしワシがいうのもアレだが。
「名前で呼ばんの?」
「分かるだろう」
「確かに呼び慣れとるやろし、ワシも深緋様の声を間違えたりせんけど、でもせっかくお互いの名前が分かったんやし……」
「俺の呼びかけが不満なのかい」
「いや、そうやないけど」
「お前ら何してんだ」
 どんっとジュースの瓶を片手に、深緋様の部屋に入ってきたのは笠松だ。さらに、高尾と花宮がそろそろと入ってきた。堂々と来ればいいのに。
「何だかあの今吉さんが負けてると聞いて!」
「負けとらんし」
「相手が深緋の神だとしてももっとガツンと言えばいいんですよ」
「花宮は何を怒っとるん」
 怒ってないですと不機嫌顔の花宮に、ややこしい子だと思っていると、おいと笠松が声を発した。
「名前で呼び合えばいいだろう」
「俺の天使は一人だけだから必要ない」
「そうやなあ」
「そう言って甘やかすな」
「笠松、ワシ年下に弱くてな?」
「言い訳は聞かねえ」
 今日から赤司と今吉と呼びあうようにと言われて、深緋様が不満そうな顔をする。なら、とワシは提案した。
「二人きりの時は深緋様って呼ぶわ。深緋様も二人きりの時は天使って呼んでもええんとちゃう?」
「……それなら」
 渋々と頷いた深緋様もとい赤司をいい子やなあと今吉が褒めれば、笠松はまた甘やかすなと怒ったのだった。



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