深緋の籠番外編/マナ騒動


 今日もクエストから宿に帰ってきた笠松一行。狼同盟直営の宿で一息つこうとすると、おいと一行に声をかける人物がいた。笠松と今吉が真っ先に振り返ると、そこには不機嫌顔の福井が立っていた。
「あ、福井」
「どうしたん?」
「どうしたもこうしたもねえよ、今吉お前、また炎魔法使ったな」
 マナが乱れてんじゃねえかと福井は言い放ち、今吉はまあなと目をそらした。しかしそれは福井の機嫌を下げるだけだったらしく、彼は今吉の腕を掴むとマナ調整するからと笠松達に告げてずんずんと福井の借りている部屋に今吉を連れて行った。

 福井の借りている部屋でベッドに寝かされた今吉は、福井の小言にすまんかったわと言うだけで反省の色は見えない。使えるなら使った方がトクだとでも言うような態度に福井は全くとため息を吐いた。
「とりあえずマナ調整するわ。んで、深緋の神(スカーレット)を呼べ」
「え、何で深緋様なん?」
「説教してやるって言ってんだよ」
 前よりマナの交流が増えてると指摘した福井に、そうなんかと今吉は器用に首を傾げた。

 寝転がった今吉の体に手をかざし、マナ調整が終わると福井はそっと手を元に戻した。
「ありがとさん。楽になったわ」
「だろうな。とりあえず炎魔法はせめて控えろ」
「無理やろ。属性相性があるんやし」
「相性が不利でも魔法が通らないわけじゃねえだろ」
 またため息を吐いた福井に、じゃあ深緋様を呼ぶわと起き上がった今吉がそっと赤いネックレスを触るとふわりと彼の隣に赤い髪の少年神が舞い降りた。
「はっや」
「そりゃ俺の天使(ミスラ)が呼んだのだからね。何か用かい?」
「どうせ話は聞いてただろ。マナを無理やり今吉に流し込むのをやめろ」
「どうして?」
「生き物のマナバランスは繊細なんだっつーの! 下手したら死ぬぞ!」
「ワシ死なんけど」
「あー、そうだったな」
 これだから天使はと頭を抱え込んだ福井に、深緋の神である赤司はふむと口元に手を当てて頷いた。
「つまり有害だと?」
「そうなる」
「えー、ワシは気にせんけど」
「少しは気にしろ!」
「そうか」
 ならばと赤司は笑みを浮かべた。
「俺の天使のマナを組み替えればいいわけだね」
「えっ」
「そうすれば俺のマナで満たされるわけだから体調不良も起こらないだろう」
「え、えっおま、そんな事出来んの……?」
「大袈裟なことなん?」
「それこそ神じゃないと出来ねえよってそうだ深緋の神は神だったわ……」
「天使はどう思うんだい?」
「ワシは別に」
「そこ安易に肯定しない!!」

 そうして一方的な話し合いの結果、せめて保護者に相談しろと叫んだ福井の声を聞いて笠松達が部屋に突入する騒動になるのであった。



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