クエスト!旅商人の護衛


 朝、いつものように祈りを済ませてから、今吉はクエストボードの元へと向かった。
 すると珍しく春日が居て、おはようーと笑った。今吉も挨拶を返し、何か良いクエストがあったかと聞くと、途端に春日が不安そうな顔になった。
「何かあったん?」
「実は知り合いの商人からクエストを頼まれてねー、護衛のクエストなんだけど」
「護衛? ほんならワシ達も行こか?」
「うーん、嬉しいんだけどちょっと不安なんだよねぃ」
「何か問題があるんか」
「実はね、運ぶ荷物が特殊なんだよねぃ。匂い箱って知ってるー?」
「いや、わからんな」
「匂いで魔物を引き寄せるアイテムなんだよねぃ。それを十数個まとめて隣町のギルドまでお届けするのー」
「なんや、戦闘に力を入れとるギルドからの依頼ってわけかい」
「元はそうなるねぃ」
 もしアイテムが間違って作動したら多くの魔物との戦闘は避けられない。その事が人間にとっても魔物にとっても不安なのだと、魔獣使いである春日は難しい顔をした。
 今吉はその複雑な思いを汲み取ったのか、朝食時にでも皆に相談して欲しいと伝えた。そして笠松達を起こしてくると部屋へ戻った。

 今吉が笠松と高尾を起こし、食堂へ向かうと先ほど話した春日に加え、福井と花宮がいた。
「花宮やん、久しぶりやなあ」
「無事そうですね」
「挨拶ぐらいせえよ」
「分かりましたから目を開かないでください。久しぶりですね。ところで深緋の神は?」
「んー、呼んだら来ると思うで」
「呼ばなくていいです」
 そうして席に着き、料理人が作ってくれた食事を食べながら春日が例のクエストについて説明した。
 真っ先に食いついたのは高尾だった。
「難易度が高いクエストなので皆で護衛はどうでしょうか!」
「蜘蛛の巣は動かねえぞ」
「でも今吉さんは参加するんですよね?」
「勿論や」
「俺だけこの人の護衛するんで」
「わあ花宮さんブレない」
 そこで黙っていた笠松が、クエストを受けようと言った。
「参加するのは俺と高尾と今吉と春日と福井。花宮はあくまで今吉の護衛でいてくれ。蜘蛛の巣が関わるとややこしくなる」
「あー、報酬とか面倒ですからね。狼同盟に一括が依頼人も楽でしょうし」
 高尾がうんうんと頷きながら言い、それならと笠松は春日を連れてクエストの受注に向かった。その間、今吉達四人は食事に専念したのだった。

 食事を終え、護衛する商人と合流すると、皆でぞろぞろと隣町へと出発した。
 依頼主である商人が慎重な性格だった故、匂い箱の管理はしっかりしていたが、どうしても魔物との戦いは避けられない。福井の相変わらず無駄に強い結界の中に商人と荷物を配置し、皆が連携して魔物を追い払う。
 特に春日の妖精女王ティターニアの活躍は目覚ましく、避けられる戦闘はなるべく避ける為にと魔物との会話に何度も試み、避けてくれた。中でも縄張りに進入したことで怒っていた巨大な魔物の怒りを鎮めた際には、もう春日とティターニアだけで良かったのではと今吉が首を傾げた程だった。

 そんなこんなで無事に隣町のギルドに荷物を届けると、春日が代表して商人から報酬をもらい、商人は次の街に行くための商品探しへと向かっていった。
 春日はその背を心配そうに見送り、商人の姿が見えなくなると皆へと振り返り、言った。
「それじゃあ狼同盟の宿に戻ろっかー」
「せやね」
 報酬の山分けはそこでしようと話がまとまり、六人はまた来た道を戻ったのだった。



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