深緋の籠番外
クエスト!ゴブリン退治


 狼同盟の宿。ギルドに向けて依頼されたクエストが貼られたボードを眺める今吉と笠松。難しい顔をする二人に、福井と春日が近付いた。
「どうしたのー?」
「何か妙なクエストでもあったか?」
「ん、ああ、お二人さん久しぶりやねえ」
「このクエスト、まだ貼ってあんなあって」
 笠松が指差したクエストをどれどれと福井が見る。
「××村、ゴブリン退治の依頼?」
「場所が村の外れも外れやろ? なんか前にゴブリンの巣が見つかってるらしくてなあ」
「だから誰も受注しねえんだけど、依頼主も諦めが悪いのか、他のギルドに回さねえんだよ」
「ゴブリンの巣ならギルド戦じゃねえか」
 福井が呆れた声を出す横で、ひょいと紙を覗き込んだ春日が、何か問題あるのと首を傾げる。
「問題だらけだろ。巣にどんだけゴブリンが居ると思ってんだ」
「えーでも俺これどうにかできるよ?」
「だからどんだけ居ると」
「つまりこれ、村にゴブリンが来ないようにしてほしいって事だよねー? だったらちょっと躾ければいいんだよねぃ?」
「……何言ってんだお前」
 福井がポカンとする。笠松と今吉も目を点にした。
「じゃあ俺受注するねー」
「ま、待て待て待て」
 俺達も付いていくと福井。俺達もかと笠松。死なば諸共ってやつなんかなと不死身属性持ちの今吉がハハと笑った。


「さて着きました村外れです!」
「いざとなったらショウ兄だけ連れて帰る」
 俺たちを見捨てるんですかと高尾が叫ぶと、うるせえと花宮が顔を顰めた。名指しされた今吉はいやワシいざとなったら深緋様が来てくれるしと冷静で、笠松は呆れた目をし、福井はハラハラと春日を見ていた。
「さてーゴブリンって何属の魔物か知ってるー?」
「えっと、下位妖精属です!」
「はーい高尾正確だよん」
 だから躾はお父さんの役割だよねと春日、首を傾げる高尾。妖精属と聞いた瞬間に真逆と顔を青ざめる福井。他は何言ってるんだと不審そうな顔をしていた。
 春日が一歩前に出る。じゃあ行くよと微笑んだ。
「古の王、古き神、古き血の古き伝承。そこに生きる古の妖精王、オベロン。出でよ______なんて、詠唱いらないんだけどねぃ!」
「要らねえのかよ!」
「おいでオベロン! ちょっと用事があるんだけどー!」
 そんな詠唱で妖精王がホイホイ召喚されねえだろと叫んだ福井。だが春日の目の前で風が巻き起こる。ぶわりと強い風が吹いた時、目を開くとそこには冠を頭に、優しく微笑む高貴な衣装の男の姿。いつぞやの最終決戦で見かけたその姿に、高尾達はそういえばと遠い目をした。
「そういえば、召喚してましたね……!」
「忘れとったわ」
「ええー忘れないでー俺とオベロン頑張ったんだからー」
 で、オベロンと春日は小首を傾げた。
「ちょっとこの辺のゴブリンが人里に近づいちゃってて人が怖がってるみたいでねぃ」
 言い聞かせてくれないかなと頼んだ春日に、任せろとオベロンは笑うとドルイドが持つような長い杖を持った。

 わりと殴っていきそうな持ち方で。

「言い聞かせる、とは」
 唖然と言葉をこぼす高尾。ゴブリンに対してビシバシ攻撃をかましていくオベロンとニコニコ見守る春日は、結局ゴブリンの巣に壊滅的な被害をもたらし、ゴブリン達は群れ単位で逃げるように村外れから去って行ったのでした。

「平和(物理)ってこういう事を言うんやなあ」
「変な事覚えんなよ」
 頷く今吉に、笠松が速やかに訂正したのだった。



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