深緋の籠15


 森の中を走り続けて数分。笠松がようやく立ち止まると、四人もまた立ち止まった。ゼエゼエと荒い呼吸を落ち着かせてから、高尾が言う。
「もー笠松さん突然過ぎですって、腹痛い」
 その言葉にすぐさま同意したのは福井で、何を急ぐことがあったんだと笠松に問いかけたが、ちょっとなと笠松ははぐらかした。
 福井が追求しようとすると、おういと声がして一人の少年が現れた。その少年に福井を除く一行は驚いた。
「春日?! 」
「みんな元気そうでなによりだねえ」
 合流出来て良かったと春日は安心したように息を吐き、そうだと服の中からネックレスを取り出した。それは狼のシンボルであり、狼同盟の証だった。
「俺も狼同盟に入ったんだー、よろしくねぃ」
「は?! 」
「え、マジで?! 」
 笠松と高尾が唖然としていると、今吉が首を傾げる。
「春日って商人やろ? 戦えるん? 」
「へへ、これでも魔獣使いなんだよー」
「魔獣使い? 」
 疑問符を浮かべる今吉に、花宮がモンスターなどを従える職だと伝える。納得した今吉の横で笠松と高尾が春日に質問した。
「突然だな。何かあったのか」
「何も無いよー? 前から狼同盟に入りたかったんだよねい」
「そんなサクッと加入したって言われても! 」
「いやー、お父さんの許しがなかなか出なくて、結局飛び出してきたんだー」
 ハハハと笑う春日に、こういう奴だからと福井は肩を竦めた。笠松と高尾はこれ以上の追求は無意味だと悟り、口を閉じた。
「とりあえず、春日と福井はどこに行くつもりなんだ? 」
「いや、特に決めてねえな。春日のレベリングできそうな処を探してて」
 それなら、と笠松と福井がアレコレと話しているとふと花宮が空を見た。高尾と今吉も上を見上げる。春日もまた空を見た。
 浮かぶのは飛行船。
「ねえ、あれって誠凛号(セーリン・シップ)だよねー? 」
 一行の上で止まった船に、福井は悪い予感しかしないと頭を抱え、笠松はとりあえずと今吉のそばに移動した。


 誠凛号が低い位置まで降り、縄梯子が降りてきた。それは前に宿場町で会った伊月だった。
「お久しぶりです。実は話があるのですが、俺たちの船に来ていただけませんか」
「……お前、誠凛だったのか」
「ええまあ。そちらのお二方は見覚えがありませんが、お連れでしょう? ならば問題ありません」
 にっこりと笑う伊月に、高尾は腕を摩った。笠松に小声で目を感じると言うと、笠松は眉を寄せる。今吉は笠松が良いならと言い、花宮は無言だった。春日と福井は初めて間近で見る誠凛の船に驚きっぱなしだ。
 笠松は長い溜息を吐き、良いぜと頷いた。
「俺たちと話があるんだろう」
「はい」
 できれば人に聞かれる可能性が無い場所が良いのですと伊月は笑みを浮かべていた。

 誠凛号に乗ると、真っ先に出迎えたのは一人の少女だった。
「初めまして。私は相田リコ、誠凛のギルマスをしています」
「俺は笠松、こっちは高尾と今吉。向こうにいるのが花宮で……花宮の仲間はどうした」
「あいつらは置いてきました」
「そうか。で、あっちは福井と春日だ」
「よろしくお願いします。こちらも自己紹介をしたいのですが、船員はそれぞれ持ち場で働いていて集まれそうに無いんです。それぞれ会ったら自己紹介をさせてください」
「分かった」
 突然なのにありがとうございますと相田は頭を下げる。そしてそろそろ夕方だから話し合いは明日にするとして今日は泊まっていってくださいと言い、伊月と共に笠松一行を宿泊可能な部屋へと案内した。
「ゲストルームは二つしか無くて……三人ずつ泊まっていただけるとありがたいです」
 食堂はさっき通った道の大きな扉で、夕飯までにまだ時間があるから船内を自由に過ごしてくださいと相田が告げると、カントク来てと猫のような少年に呼ばれて、第二機関がまた故障なのとその場を離れた。
 そうして離れていく相田を見つめていた春日は、もしかしてと伊月に問いかけた。
「相田さんてもしかして読み取る目(アナライザー・アイ)持ちなのー? 」
 伊月はその言葉に目を見開き、よく分かりましたねと驚いていた。春日は自分は商人として読み取る目を持つ人と会ったことがあると言った。
「一度会えば、目を見て分かるよー。とても珍しいスキルだよねえ。そんな人がギルマスかあ」
「カントクは読み取る目を人に指摘されるのを得意とはしてませんけどね。でも、とても強い人ですよ」
 もしよければ船内を案内しますと話題を変えるように伊月が言うと、福井と春日と高尾が反応した。一方で、今吉は部屋で休むと断り、笠松と花宮は好きなように散策すると言った。なので伊月は三人を連れてその場を離れる。それを見て今吉は部屋に入り、そんな今吉を確認してから、花宮と笠松はゆっくりと船内を歩き始めたのだった。



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