深緋の籠7/PG組/RPG系謎パラレル


 朝食を食べ終えると笠松が次の町へ行こうと提案した。今吉が早いなと言えば、追っ手が来るかもしれないからと高尾が笑った。その傍らで難しい顔をしている花宮に今吉が声を掛けるか迷っているのを見た笠松は席を立った。
「手早く荷物をまとめろ。直ぐ旅立つぞ」

 職人の町を後にした笠松達は山道を進んだ。あれはベリー、あれはクロノミ。果実や魔法植物を指差しては図鑑をなぞる様に名前を確認していく今吉に、笠松は本当に神殿から出なかったんだなと呟いた。今吉はハハと笑う。
「なんでやろ、出る気はさらさら無かったんや」
 どうしてか分からないけどと今吉が笑いながら言った時、花宮と高尾が顔を上げた。花宮が仲間に指の動きで指示を飛ばし、高尾が詠唱して発砲。笠松が今吉を守るように構えて小刀に手を置いた。
 いち、にい、さん。数えたのは高尾だった。
「来ます! 」
 途端に木々の間から何者かが飛び出してきた。キンッと金属がぶつかり合う音がする。高尾の発砲は後衛、蜘蛛の巣の面々は前衛。笠松に迫り来るのは桃色の刃。
「くッ」
「踏み込みが甘いんだよッ! 」
 笠松が刃を押し退ける。桃色の何者かが後退し、姿勢を立て直した。それを見て、今吉が目を見開いた。
「あれっ女性ですか?! 」
「高尾は前見とけ! 」
「そっち行ったぞ鷹の目! 」
 分かってますよと高尾が発砲する。瞬間、何かが割れる音がした。今吉が見れば、それはヒーラーの持つ杖だった。襲撃してきた者達が直様後退し、対峙してくる。笠松が声をかけた。
「何者だ」
 桃色の髪をした女性が顔を上げた。
「今吉さんを返して!! 」
 今吉が眉をひそめた。笠松は名前が聞き取れないのだろうと判断し、また彼らを見る。花宮が口を開いた。
「青の村の自警団。今回の切り込み隊長役は桃井さつきか。よく見りゃ桜井も若松も、諏佐サンも来てんのか」
「……貴方は何者なの」
「俺か? 俺は蜘蛛の巣のギルマス、花宮真だ」
 ニィと笑った花宮に、襲撃者は目を見開いた。お前ならと背の高い男が叫ぶ。
「お前なら今吉さんを連れ戻すべきなのを知ってる筈だろ!! 」
「ハッ知るかよ」
「そんなワケッ」
「よせ、若松」
「でも!! 」
 すっと、一人の少年が前に出た。花宮が諏佐という少年だと笠松と高尾に伝えた。
「俺の杖が壊れてしまっては分が悪い。今回は手を引こう。だが、俺たちは必ず今吉を連れ戻す」
 なあ、今吉、覚えてるか、俺だよ。諏佐がそう言って今吉を見つめる。それを見た今吉は目を見開いて、それから僅かに微笑んだ。
「よく、知っとるよ」
 今吉の言葉に諏佐は表情を和らげ、続けて笠松達を睨むように見つめてから森の中へと消えて行った。

 完全に気配が消えると高尾がふうと息を吐く。仲間達もまた気を緩めると、高尾が花宮に問いかけた。
「青の村の自警団って、そんなのあったんですか! 」
「あるな。村々には自警団があって、青の村は特に優秀だ。だから今回白羽の矢が立ったんだろ」
 厄介ですねと高尾が頭を掻く。
「しかも知り合いを送り込むとか、ホントやってらんないですね! 」
 さっさと町まで行こうと高尾が言うと、笠松は頷いて歩き始めた。しかしすぐに立ち止まり、今吉に問いかけた。
「歩けるか」
 怪我でもしたんですかと不思議そうにする高尾に、今吉は大丈夫だと笑って笠松の隣を歩き始めたのだった。


 森の中、モンスターと時折戦闘をしながら進む。しかし途中で笠松が突然耳を澄ませ、水の音がすると言った。一行が進むと、視界が開け、大きな泉が現れた。澄んだ水に高尾は嬉しそうに駆け寄った。
「大丈夫、飲める水ですよ! 」
「俺から見ても大丈夫だな」
「ほら花宮さんも言ってる! 」
 高尾は笑ってボトルに水を入れた。しばらく涼むことになり、高尾は花宮を強引に泉の中へと引き込んで遊び始めた。
 笠松は休憩だと言ってるのにと眉をひそめたが、今吉はまあいいじゃないかと微笑んだ。笠松はそんな今吉を見て、足を泉に浸せと指示した。今吉が大人しく両足を水に浸すと、笠松は右足を持ち上げて確認した。
「少し捻っただけか。これなら大丈夫だな」
「ん、そうやろな」
 しかしこれは置いておくとしてと笠松は続ける。
「お前本当は……」
「笠松」
 今吉が名を呼んで彼の言葉を止めた。笠松が不審そうにすると今吉は苦笑する。
「ここでは聞かれてしまうわ」
 そのことはどこか人のいないところで。今吉は悲しそうな目をして頼んだのだった。



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