05.その微笑みに満たされて/赤→今


 夕方のこと。生徒会室。そろそろ帰ろうかとワシが席を立つと、赤司はうっすらとした笑みを浮かべてこう言った。
「明日、屋上で待っているよ」

 次の日、朝。寝て起きたら昨日のことは夢だったりしないかなと思ったのだが、ワシのそこそこ使える脳味噌は昨日の夕方の赤司は現実だって突きつける。屋上で待つと言っても一体何の用なのか。そもそもそこはどの屋上で、何時待ち合わせなのか。さっぱり分からない。混乱する頭で、ワシは何とか家を出た。
 登校後、もしかしたら赤司が生徒会室にいるかもしれないと期待して向かったが鍵が掛かっていた。
 昼休みになるとワシは屋上に行くか迷った。そうしたら赤司も含むいつもの面子が屋上でお昼を食べようとワシのクラスにやって来たので、どうやら時間は昼休みではないと分かった。
 ならば時間は夕方だろう。何せ授業後は生徒会の仕事があるのだから。

 生徒会室でパソコンと電卓を叩く。学園祭での細かな収支の記録と計算をしていると、時間はあっという間に過ぎた。その最中、呼ばれて顔を上げることがあったが、他の役員は普通に顔を合わせるのに、赤司だけは目を向けずに指示を口にした。そういえば、お昼休みにご飯を食べた時も赤司だけは目を合わせなかったなと気がつき、何を企んでいるのかと頭が痛くなった。赤司は頭が良すぎて頭がおかしいところがある。見えてる世界が我々凡人とは違いすぎるのだから仕方ない。まあ、そこが面白いのだが。それにしても何を企んでいるのか、嗚呼怖い。

 夕方、他の役員がとっくに帰ってしまった頃。赤司が席を立った。そして鞄を持ち、扉に手をかけると言う。
「鍵閉めを忘れないように。先に行ってるよ」
 あ、はいと言おうとして、最後の言葉に顔を上げる。
「……はっ?!」
 声を上げた時にはもう彼は居なくて、しまったやられたとワシは急いでパソコンをシャットダウンし、鞄を引っ掴んだ。

 急いで生徒会室の鍵を閉め、職員室に鍵を返しに行く。鍵の棚に鍵を戻せば、教室のある校舎の屋上の鍵が無いことに気がついた。なるほど、赤司はここに居るのか。

 階段を駆け上がり、屋上へ続く扉を開く。すると立っていた人がくるりと振り返った。夕陽のオレンジ色に染まる世界で、赤司の赤い髪がより深い赤へと変わっていた。
 用事は何だと聞こうとして、こちらにおいでと呼ばれた。何を言っても聞かないだろうと予感させる気配に、ワシはため息を堪えて、呼ばれるままに彼の正面へと近寄った。すると、するりと彼の手がワシの頬を撫でた。
「ああ、やはり綺麗だ」
 そう目を細めた彼の目には何が映っているのだろう。何故だかとても幸せそうだ。
「僅かに夕陽色へと染まる髪と、赤みを帯びる肌が綺麗だ」
 熱に浮かされたような言葉に、何だそんなことかとワシは驚いて、呆れて。
「そんならいつでも夕方に会うたるよ」
 と、少し笑いながら言えば、赤司は僅かに目を見開いてから、ふわと笑った。その顔にワシは何も言えなかった。
「ああ、そうするよ」
 そうしてワシの手を掴んだ赤司は本当に嬉しそうで、何だか困った事になった気がすると頭の隅で考えたのだった。

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