二日目・目覚めの所有者編


 食堂は星座連合の星座の力保有者達の力ですぐに修理され、俺たちは改めて出された朝食を食べ終えると体育館へ練習に向かった。
 昨日と同じく、桐皇との合同練習となったが、諏佐と黄瀬も皆が行う軽いトレーニングに参加することとなった。怪物の脅威がある所為で彼らは一瞬も気を抜けないが、それでもバスケは気が紛れるからと二人が揃って言ったのだ。

 そして昼、皆が足を止め、午前の練習を終えた直後のことだった。
「失礼します!!」
 小金井が体育館に飛び込んできたかと思うと空中に向けてカトラスを投げ飛ばした。叫び声と共に黒く巨大なカラスの姿をした怪物が現れる。皆が驚いてざわつく中、直ぐに諏佐がメイスを召喚する。だがそれよりも先に小金井と共に飛び込んできた実渕が石板を召喚、手を振り上げると石板から文字らしきものが浮かび上がり、文字の鎖となって怪物を地に縛り付けた。そこでようやく諏佐が結界を展開し、黄瀬が前線へと突っ込む。小金井は飛び跳ねてカトラスを回収し、再び構えると怪物へ突撃した。諏佐はメイスを振り上げて黄瀬と小金井にバフを乗せ、実渕が二枚目の石板を召喚、紫色に光ったかと思うと怪物が苦しみだした。
「毒を付与したわ。でも私、拘束系Bクラスだからバステはあまり期待しないで」
「分かった」
 黄瀬も分かったッスと叫び、自身に素早さ強化を付与。その間に小金井のカトラスが舞う。
「あーもう固い! 多分防御高めっぽい!」
「そーみたいッスね! 諏佐さんもっかいバフお願いッス!」
 諏佐がその言葉にメイスを振り上げた時、怪物の羽根がぶわりと逆立ったこと思うと浮かんだ羽根がヒュッと諏佐に向かって飛んだ。そのスピードに避けきれず、諏佐の腕に大きな傷が出来る。
「諏佐さん!!」
 黄瀬が動揺し体勢を崩した。怪物が叫び声と共に空中から光線を発射、黄瀬は防御が間に合わずにその場に倒れた。
「黄瀬ッ!」
 森山が動揺し、結界を飛び出そうとするのを小堀が止める。小金井は紙一重で怪物の攻撃を避けながらチャンスを伺い、実渕は石板を出している所為からなのか、その場から動かないでいた。
「小金井くん!」
 体育館に飛び込んできたのは相田だった。何故来たのかと思っていると、隣にいた今吉が、納得した顔で成る程と呟いた。何か分かったのだろうか。
 相田は結界に入り、戦況を確認するとギュッと手を握り締めた。自分に力があれば、そんな呟きが聞こえた気がした。
「黄瀬危ない!!」
 森山の叫びに急いで黄瀬を見れば、膝をつく彼に怪物の羽根が何十枚と迫っていた。諏佐が走る。実渕が叫ぶ。小金井が怪物の注意を引こうとする。だけど、間に合わない。
「逃げて!!」
 森山の声、息を飲む皆。瞬間、何かがドクリと鼓動した。怪物の羽根が止まり、ゆっくりとその目が森山に向く。森山は胸を掻き毟りながら蹲っていた。
「う、あ、ああ」
 絞り出すような苦痛の声、その姿の既視感に真逆と目を見開く。その姿はいつかの日、星座の力に目覚めた日の自分に似ていた。

 そう、彼は目覚めてしまったのだ。

 相田が森山に駆け寄る。苦痛と不安で震える森山の前にそっと立ち、手を差し伸べた。その手を辿って、森山の目と相田の目が合う。森山が目を見開き、唖然と口を開いて声にならない驚愕の声を漏らした。目と目で何かを語った二人には、何かが分かったのだろう。
 相田が口を開き、声を発する。その声は、不思議とその場に響いた。
「あなたの為なら私は戦える。あなたと共になら、私はこの恐ろしい、長い戦いに身を置ける。どうか私の手を取ってはくれませんか」
「あ、ああ、おれは」
「大丈夫。絶対に貴方を殺させない」
「ちがう、俺は、人が死ぬのが怖い、相田さんが死ぬのが怖い!」
「……それは」
 相田の目が揺れる。だからどうかと、森山は言葉を選び、伝える。
「守らせて、俺が、君を守るよ」
 そう、と相田は微笑んだ。

「私が、私こそが貴方の剣となりましょう」
「俺が、きみを守る盾となるよ」

 手と手が重なった。契約だ、脳内で誰かが呟いた。その刹那、二人の間で何かが輝いたかと思うと、レイピアと指輪がその場に現れた。中に浮かぶレイピアを相田が掴む。森山もまた指輪を掴んだ。相田が森山の目を見て頷くと、森山は右中指に指輪をはめた。
 そして相田に手を向けて防御強化のバフを付与、相田はレイピアを手に怪物へと突撃した。
「はああ!」
 相田が声を上げてレイピアで怪物へと攻撃を繰り出す。森山は本能からやるべき事が分かるのだろう。防御強化のバフを小金井と黄瀬にも付与した。

 諏佐の回復スキルで戦線復帰した黄瀬も加わり、六人かがりでカラスの怪物との戦闘が繰り広げられる。六人で戦うことで、やっと怪物にダメージの蓄積が見て取れた。小金井のカトラス、黄瀬の刀、相田のレイピア。それぞれ攻撃力は高くないようだが、諏佐のバフがそれを補助する。実渕が怪物にデバフと拘束を行い続け、森山が二層目の結界と防御のバフを皆に付与する。支援と前線の連携が取れた頃。カラスの怪物は黄瀬の一撃により崩れ落ち、砂となって消えた。

 森山がその場にへたりと座り込み、相田が駆け寄る。黄瀬もまた腕の怪我を回復している諏佐へ駆け寄り、比較的被害の少ない小金井と実渕はお互いに駆け寄って無事を確認した。
 諏佐と森山の結界が解かれると皆がワッと星座の力保有者達に近寄った。無事を確認し、パートナー契約を行ったばかりの二人に祝福の言葉をかけた。良いことばかりではないことを皆は知っている。だが、戦う手段もないのに力を得るよりはずっとマシだ。
 パートナー契約を行っていない俺はそっと息を吐く。目敏く気がついた今吉がどうしたんと声をかけてきた。
「ああいや、契約が羨ましくてな」
「よう分かるわ。ワシも、いつかあんな風に契約するんやろか」
 何時になるか分からんけどと笑い、それよりもと顔を引き締めた。
「真逆目覚めるなんてなあ。怪物に連続して襲撃されたことで覚醒したのか、相田さんが居たからなのか」
「森山は守りたいと言っていたし、能力も守護の力に見える。黄瀬が襲われたのも原因かもな」
「あー、そうかもしれんな」
 相変わらず星座の力は分からないことだらけだと、今吉は珍しく困った様子で長いため息を吐いたのだった。

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