03.年の差以上にどこか遠い/花→今/掌編


 1歳。たった1歳の筈なのに。

 俺の日常は色褪せていた。周りは馬鹿ばかり、猫をかぶって表面上のお付き合い。それら全てが鬱陶しいと思うときも多くあった。
 だけど、そんな時にあの人に出会ったのだ。
___なんや、生き辛そうやなあ
 そんな風に意地悪く笑って、俺の心を見透かした。
___もっと上手くやらなあかんよ
 細めた目で俺を見て、俺の額に指を当てて、笑ってた。その瞬間、俺は恋に落ちたのだ。

 それから、あの人経由で色んな奴に出会った。でもやっぱりあの人が特別、俺のことを分かっていた。理解していた。寄り添ってはくれないけれど、心を見透かして、苛立って苛立って、本当にダメになりそうな時はそっと肩を掴んで引き戻してくれた。依存してるな、昔馴染みの古橋に言われて、俺はふはっと笑った。
「当然だろ」
 あんな人、依存しないわけが無い。

 だけど、それが独りよがりだと気がついたのはいつだったか。あの人は皆に平等に、温和な顔で笑う。猫被りとも言えるが、それよりもそういう性格なのだと分かった。自分は打算的な性格をしているとあの人は言う。そしてそれは合っている。でも、その行動で救われる人も多い。打算的、実力主義。でも、何だかんだでお人好しなのだ。根は良い人だよな、そう言ってたのは山崎だったか。あの人以外だったら、馬鹿な奴だなと思うだろう。だけど、あの人だから、俺は笑えなかった。
 そんなあの人が愛おしいと思ったのだ。

 俺はあの人が好きだ。特別だ。だが、あの人は平等だ。俺のことを特別には思ってない。その事実が唯々、重くのしかかる。ああ、神様なんて信じてないけど、やっぱり神様ってのは理不尽だ。馬鹿みたいな事を考えて、頭を振った。
「花宮ー?」
 どうしたんとあの人が窓から顔を覗かせる。気がつけば、いつもの面子が揃って俺を見ていた。だから、俺は言う。
「何でもねえよバァカ」
 先輩に何て口きいとるんとあの人が俺の頭をわしゃわしゃ撫でる。そんな些細なことが嬉しくて、俺は心の中で己を指差して笑ってやったのだった。

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