04.見つめるだけ、想うだけ/春→今


 学園祭、準備。実行委員の福井が指示を飛ばす中、ワシは美化委員の春日と生徒会室に向かっていた。ワシは生徒会室で動くのでクラスの催し物にはあまり関わらず、春日もまた美化委員の見回りがあるのでクラスの催し物にあまり関われない。そして今日は生徒会に許可証をもらいに来るのだそうだ。
「皆お祭り気分やなあ」
「もう二週間後だもんねぃ」
 そりゃ舞い上がるよと春日は笑う。ワシもそらそうかと笑って、生徒会室の扉を開いた。

「あ、ほかの人たち居らんな。んー、鍵開けっぱでどこ行ったんやろ」
 とりあえず、適当に座っといて。春日にそう言ってガサガサと資料の山を探る。おかしいここに置いてあったのにと思っていると、どうやら几帳面な書記が机に移動させたらしい。ありたいが一言書き置きでもほしかったと思いながらも、無事見つけた許可証を持って振り返ると、春日と目が合った。その目が射抜くように強くて、驚く。
「あったー?」
「え、ああ、あったで」
 ふっと許可証に視線を落とす春日に違和感を抱きながらも、なんとか許可証にボールペンでサインをする。
 春日にはいと渡すと、ありがとうと笑う。
「じゃあ春日はこれから美化委員会か?」
「うん。でもちょっと時間あるんだよねぃ」
「ほんなら此処に居る? どうせ皆駆けずり回っとるし」
 好きにしとってと言えば、春日はぱちぱちと瞬きをしてから、へにゃりと困ったように笑った。
「遠慮しとくー。悪いしねえ」
「え?」
 その言葉が本心ではないとすぐに分かって、ワシははてと首を傾げる。その間に春日はただただ笑顔で生徒会室を出て行ってしまった。

 唖然と閉まった扉を眺めていたが、とに何かあるわけでもないので目をそらす。いつもと様子の違う彼は、何かあったのだろうか。
(調子悪い、とか)
 否、そうではなく、あれは。
(機嫌が悪そうやった)
 機嫌が悪いと言っても怒っているというより、困った様子だった。
「何なんや」
 またの機会に問い詰めたろうと決めて、ワシは生徒会長の椅子に座ったのだった。

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