02.きっかけを掴めない不安/福→今/福井視点/掌編


 例えば、廊下ですれ違った時とか。例えば、席替えで隣になった時とか。幸運だと喜ぶ今吉に、そうだなって目を逸らして言うことしか出来なかった。
 クラスメイトの春日と笠松と今吉と俺。クラスじゃいつもつるんでて、放課後はそこに高尾達他学年の仲間が加わる。その仲間はいつもワイワイと馬鹿出来て、楽しかった。
 だけど、いつからだろう。今吉を目で追い始めたのは。

「次は現国やなー」
 宿題やったかと言われて、やって来たと答える。でも教科書を取り出そうとして、あれ、と気がついた。その事に今吉もまた気がついたらしかった。
「もしかして教科書忘れたん?」
「そうっぽい」
 ごめん教科書見せて。そう言えばいいのに、喉に何かが引っかかったように言葉を発せられなかった。だけど、人の気持ちに敏感な今吉は穏やかに笑って、見せたるわと机を寄せてくれた。
「……さんきゅ」
「ん、どういたしまして」
 特別にメロンパンで手を打ったると言われ、ゲッと言いながらもそれぐらいならと俺は答えた。
「あーでもメロンパンたまにしか売ってねえじゃん」
「ほんなら他のでもええよ」
「何、弁当忘れたのか?」
「その通りや」
 金も忘れてなと眉を下げる今吉に、それなら菓子パンだけじゃ足りないだろうから惣菜パンも買ってやるよと言った。すると今吉は、いいのかと不思議そうにする。細められた目、緩んだ口元、安心しきった雰囲気。どれもが普段は見れない彼だから、どきりと胸が高鳴った。

 その時、がらりと扉が開いて先生が入ってくる。今日の授業は103ページから、そう言った言葉通りに今吉がパラパラと教科書を捲った。
 そして、小声で言うのだ。
「ほんなら、いつか福井が昼飯を忘れたら、ワシが買うからな」
 それでどうだと笑む今吉に、気にすんなと口に出す勇気がなくて、教科書にその言葉を書いて見せたのだった。

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