01.視線の意味を知りたくて/高→今/掌編


 背中に、視線。今吉さんと呼ぶ声がして、今吉はくるりと振り返った。すると廊下の向こうから走って来る高尾が見えたので、廊下を走ったらあかんよと声をかけた。
 今吉の近くまで来た高尾は息を整えてから、あのと切り出した。
「他学年交流会の班、一緒に組みませんか!」
「ん、別にええけど。他に誰がおるん?」
「やったー! えっと他の面子は、赤司と降旗と伊月さんと……」
「ああ、いつもの面子なんやね」
「そうでっす!」
 にっこりと笑った高尾に、元気な子やねえと今吉もまた微笑んだ。
「他に声をかけてない面子は居るん?」
「今吉さんがラストです!」
「そうなんか。なんや、最後のお楽しみってことなん?」
 今吉がにこりと笑みを浮かべて言うと、高尾もまたにこと笑った。
「勿論ですよー! だって俺は今吉さんのこと大好きですからね!」
「そらありがとさん」
 あー、本気にしてませんねと口を尖らせる高尾に、ちゃんと分かっとるよと今吉は言う。
「高尾は皆大好きやからなー」
「えー、今吉さんは特別ですよ?」
「そうなんかー」
「ちょ、頭撫でないでください! 子供扱い反対!」
「ふふ、すまんなあ」
 高尾の頭から手を離し、今吉は次移動やからと言う。その言葉に、引き止めてすみませんと高尾は眉を下げた。別にええよと今吉はいつもの温和な笑みで、高尾に手を振ってくるりと向きを変えて次の授業の教室へと向かった。

 その背を高尾はじっと見つめ、ほうと息を吐く。その目がとろけるように緩く細められているのを偶然見かけた学生たちは、相変わらず今吉さんは妙なのに好かれるなあと心の中で合掌したのだった。

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