04.名前で呼んで?/諏佐→今/執事の諏佐さんと王子の今吉さん


 落ち着いた印象を感じさせる実用性を備えながらも、さり気ない装飾で飾られた家具達。その薄暗い一室に、執事の諏佐は何度かノックをしてから入室した。
「王子様、おはようございます」
 そう言いながらカーテンを開いた諏佐に、眩しいと言いながら眠っていた今吉が体を起こす。
「着替えを手伝いましょうか」
「いい、いらん。というかその敬語似合っとらんぞ」
「そう言われましても」
「あと名前で呼べって言うとるやろ」
「……あのなあ」
「ジブン敬語似合わん」
「二度も言うか」
 とにかく起きろ時間だぞと諏佐は腕時計を見る。今日は何があるんと言われた諏佐は、午前中は勉強と王への謁見。その後お妃様との会食と、王都で行うセレモニーに出席。さらに王城で舞踏会が行われると諏佐が締めくくると、舞踏会には行かんと今吉が言った。諏佐はするすると着替える今吉から目を逸らし、前回欠席したから今回は出てもらうと告げる。めんどいなあと今吉はため息を吐いた。
「どうせ継母様にネチネチ文句言われるんやで」
「そう言うな」
「会食もめんどい」
「そっちは二人での食事だぞ」
「ワシの世間話スキルが試されとるんか」
 あー嫌やと言いながら、今吉は着替えを終えた。
「先生との約束は何時なん」
「二時間後だ。それまでに朝食を食べてくれ」
「ちなみに朝食の用意は出来とるん?」
「当たり前だろ」
 冷たいご飯は嫌やと言いながらも今吉は部屋を出る。その斜め後ろを歩きながら、諏佐は言った。
「温かい食事なんて食べたことないだろう」
「それぐらいあるわ」
「……また勝手に城下町に出たな?」
「アーアー聞こえんなあ」
 全く、と諏佐はため息を吐く。
「外壁の門番を信頼しているとはいえ、不審人物が居ないとは限らない。降りるのは控えてくれ」
「ダメとは言わんのか」
「翔一様が俺の言うことをきちんと聞いたことがありましたか?」
 突然敬語になった諏佐に、今吉が睨む。しかし食堂にたどり着いたので、メイドが扉を開くのと同時に部屋に入り、テーブルに着いた。
「王女様はもう食事を終えました」
「え、今日は一緒に食べへんの」
 妹王女が居ないと聞いて明らかに落ち込んだ今吉に、諏佐は苦笑する。
「今日は朝から王都へ向かわれました。ドレスを新調するそうですよ」
「ワシの癒しが……ってあの継母様、また服を送るってことなん」
「お妃様は王女様を大変気にしておられますから」
「お気に入り、依怙贔屓、あーもうあの子はワシの妹やのに!」
 そう言いながらも食事を始めた今吉に、諏佐は明日には戻られますからと苦笑し、さらに口元に付いてますよと今吉の頬を撫でた。びくりと動きを止める今吉に、諏佐はにこりと笑む。

 今吉は長い長いため息を吐いた。
「こんのタラシが」
「翔一様しか口説きませんよ」
「アホか」
 あーもう本当にこいつはとブツブツ言う今吉と笑顔の諏佐。その光景に慣れたメイドが葡萄ジュースのお代わりを注いだのだった。

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