01.たまには優しい労り/笠→今/幼馴染騎士の笠松さんと王子の今吉さん


 ワシはとある王国の第三王子、今吉翔一。父親は王であり、所謂正統な王子様というやつで、ワシは妹の王女と共に城壁に囲まれた城に住んでいた。
 ここはわりと小さな城だ。多くの召使と教育係、そして王国騎士団から派遣されてきた騎士達と共にワシは暮らしている。

「翔一、ここに居たのか」
「あ、幸男や」
 庭の隅、小さな丸いトピアリーの傍に座って本を読んでいると、幼馴染の笠松幸男が声をかけてきた。幼馴染ではあるが、笠松は騎士であり、ワシに仕えている立場だ。笠松がワシの幼馴染になれたのは貴族出身であることが大きい。貴族なのに騎士とは如何にと考えたこともあったが、すぐに、騎士の名家であるとも知ったので疑問は解決した。
「メイドが探してたぞ」
「嫌や」
「そう言ってやるな。今日は晩餐会があるんだろ」
「お父様とお母様が来るやつやろ。ええやん、王女だけ出れば満足なんやろ」
「そういう訳にはいかねえだろ」
 けどなあ、面倒くさい。ワシは言った。お母様はワシと妹にとって実の母親では無い。王女の妹は幼い故にまだ可愛がられているようだが、ワシはどうも鬱陶しいと思われている節があった。比較的優秀な脳味噌を危険視されているわけだ。
 渋るワシに、仕方ないなと笠松はため息を吐いてから、それでも出なくては王女様が悲しむと言う。そうして妹を引き合いに出されては観念するしかない。ワシは渋々晩餐会に出ることを約束した。

 立ち上がり、服を払う。笠松がその様子を咎めないのはひとえに昔からの付き合いだからだ。共に野山を駆け回った日々が懐かしかった。あの頃は母上も生きていて、泥だらけになって帰っては母上がいっぱい遊びましたねと笑って出迎えてくれた。もちろん、メイドや執事は頭が痛そうにしていたが。
「幸男、ご苦労さん」
 お礼と謝罪を込めて言えば、笠松は笑った。
「ったく、いつもそれぐらい素直で居ればいいのにな」
 そうすればお妃様とも少しは上手くやれるのではないか、と。
「アホか。ワシはそんなキャラとちゃいますー」
「それもそうだな」
 それじゃあ行くか、翔一様。そう言われて、メイドが走り寄ってきたことに気がついた。こんなところにいたんですかと桃色の髪を揺らしてぷんすか怒るメイドに、すまんなあとワシは苦笑を返したのだった。

- ナノ -