宮今/薬指に口付けを/3年組が仲良し設定です/40000hitありがとうございました!


 騎士様のキスは手の甲に。
 昔、おとぎ話を聞いた気がする。そのお話にはお姫様と騎士様が出てきて、身分違いの恋に二人は悩み、苦しみ、やがて自ら命を絶ってしまう。
 だから、恋ってそういうものだと思い込んでいたのだ。

 背の高い男はモテるらしい。ならばそこにイケメンという単語を足してみよう。さらにモテるわけだ。
「なんやあの視線集めまくっとる男は」
「宮地だねい」
「ワシもう帰りたい」
 いつになく元気がないねと春日が笑い、大丈夫と親指を立てた。
「二人きりにさせてあげるからねー!」
「いらんお世話や!」
 まあそう言わずにと春日は宮地へと近寄っていく。ワシも仕方ないなと歩き始めた。
 場所は駅前。人の多いそこでいつもの面子で待ち合わせしていた。遊ぶ場所は決めていないがゲーセンでも行って、マジバで昼食を食べて、ストバスに行くといった、いつものコースだろうな、とは思う。しかし、今日は何と春日が久しぶりに参加する事になったわけで、ワシとしてはかなり不安を掻き立てられる集まりである。何故なら、春日はワシが宮地に片思いしていることを知っているからだ。

 宮地と並んで会話している春日に、さらに視線を集めとるやんけとため息を吐いた。好きな人がモテるのは、不安になる。焦燥感に駆られるものだ。だってそもそも同性に恋愛感情を持てるかと言われたらそもそもノーと言いそうだし、実際アイドル好きだし、さらに異性との恋愛すらうんざりしてると噂に聞く。その噂はきっと当たりだろう。高身長、イケメン、スポーツができる。この三点セットを前に女子が黙っている筈が無いし、下手したら大人の女性も危ない。大体、平均からすれば高身長というだけのワシですら少しばかりモテるのだ。宮地はきっと相当なものなのだろう。
 やっと近くまで来て、おはようさんと声をかければ、宮地がおはようと返してくれる。それが嬉しくて思わずマフラーに口元を隠すと、春日がまだ全然集まらないねいと辺りを見回した。その発言にどうしてかどきりとする。そう、もう春日が爆弾にしか見えないのだ。久しぶりにヒヤヒヤとした感覚を味わっていると、向こうに諏佐と小堀がいると春日が手を振った。ワシもどこやろかと振り返ろうとすると、おいと声をかけられた。驚いてそちらを見れば、宮地が視線を逸らして何かを差し出していた。何だろうと受け取ればそれは温かいホッカイロで、寒いんだろと彼はそっぽを向いてしまった。その言葉に、もしかしてさっき顔をマフラーに埋めたからだろうかと思い当たって、寒いは寒いがそこまでではと断ろうとしたところで諏佐と小堀が来てしまった。
 四人が話していて返すタイミングを逃したワシは、仕方ないからと心の中で言い訳をしてポケットにカイロを入れた。
「おはよう」
「うわあ! な、黛か!」
 驚いたと振り返れば黛が居て、彼は朝から甘酸っぱいなこの野郎と無表情で罵ってきた。理不尽だと言えば、リア充爆発しろと言われる。それこそ理不尽だ。
「黛も久しぶりやな。まだ集まっとらんよ」
「そうか。じゃあ俺先に本屋行ってるから」
「え、本屋行く予定やっけ?」
「俺が今決めた」
 相変わらずマイペースだことと苦笑すると、すいと黛の顔が近寄ってくる。何だろうと退けば、耳元でじゃあいつもの本屋に行ってるからと囁かれて、ぞわと鳥肌が立つ。そういえば黛もイケメンな上にイケボだった。忘れてた事実を再確認しつつ腕をさすりながら、そうだとしてもその行動は無いわとぼやく。すでに黛の姿は雑踏に消えていた。
 はあとため息を吐くと、おいと声がかかる。その声は宮地のもので、不機嫌そうな声色にどうしたのかとすぐに振り返った。
 振り返ればやっぱり不機嫌そうな宮地が居て、何かあったのかと春日を見れば、苦笑された。え、何。思わず目を開くと、宮地ワシの腕を掴んだ。そして春日達に先にゲーセン行ってると言って歩き始めてしまった。状況がよく分からなくてとりあえず春日へと振り返ると、ひらひらと笑顔で手を振られた。これはつまり、見捨てられたということですか。

 歩く、歩く。無言の中、ずんずん進む宮地に、ふとゲーセンへの道程とは違うと気がついた。どこに行くのかと問いかけるが、返答無し。無視されるのはちょっと傷付く。ちょっとだけだが。
 たどり着いたのは路地を二つ曲がった先にあった閑散とした公園だった。小さなそこには僅かな木々と芝生、そしてベンチがあるだけだ。
 腕から手を離し、入り口で立ち止まる宮地に、なあと声をかけた。
「突然どうしたん」
 こんな風に二人きりになるのは初めてで、緊張からくる震えを抑えてそう言えば、宮地のむすっとした顔が視界に映った。まだ不機嫌なようだ。
「……警戒心無さ過ぎ」
「ん?」
 聞き間違いかと思って聞き返すも、二度目は無かった。どうやらワシに警戒心が無いらしい。
「そんなん初めて言われたわ」
「初めてじゃなかったら轢く」
「はあ?」
 訳がわからないと言えば、うるせえと返ってくる。ひどい言い草ではないだろうか。というか宮地一体何を考えてこんな所に連れてきたのだろう。ぐるりと公園を見渡しても特に変わったところはない。余った敷地に適当に見繕われたような公園は、どこか寂しげだった。
 ベンチにでも座ろうかと数歩進んだ時、ぐいと強く引っ張られる感覚と、僅かな温もり。強い力で抱きすくめられたと気がつくと、カッと顔が熱くなった。
「え、ちょ、何?」
「警戒心とかねえの」
 耳元で囁かれて、ぞわぞわとくすぐったい。でも笑い声を上げられるような雰囲気ではないから、笑いを堪えるとふっと息が抜けた。
 そのまま耳の後ろを唇で弄られて舌で舐められる。流石にひっと声を出せば、男が上機嫌になった。そのことに気がつくと少し安心して、ワシは口を開いた。
「もう、何なん。いたずらが過ぎるで」
 そう、この言葉で腕を離してくれれば良い。そうすればただの悪戯で済まされるから、そう考えていると、また宮地の機嫌が下がった気がした。え、何で。
「宮地ほんまにどないしたん」
「悪戯じゃねえから」
 いや何を言っているのか。そう呟けばぎりぎりと痛いぐらいに抱きしめられた。ギブギブと言えば、ぱっと体を離された。

 ああもう何なのか。そう言って宮地を見れば、やけに真剣な顔をした男がいた。ここでひとつ、ワシは初めて知ったことがある。顔が整った奴の真顔は、怖い。
 え、何、怖い。そう呟こうとした時、宮地が口を開いた。
「好きだ」
 たっぷり十数秒。
「はい?」
 だからと宮地は不機嫌そうに言った。
「今吉が好きだ」
「え、ちょ、タンマ。何言うとるん?」
「ずっと前から好きだ」
「い、いつから……」
「一年の時から」
「それワシら出会っとらんやろ!」
「会場で見かけた」
「まさかの一目惚れかーい!」
 嘘だとしか思えなかった。あまりに都合の良すぎる展開に混乱するしかない。冷たい風が吹いて、少しだけ頭が冷える。今が冬で良かった。
「返事してくれねえの」
「ちょ、ちょおっと待ってな」
「顔が赤い」
「そら悪かったなあ!」
 ああもうとマフラーに顔を埋める。返事なんて自分でも分かりきった答えがある。だけど素直に返すことが出来なくて、時間が欲しいと思った。そう、時間がほしい。せめて一日ぐらい。
「なあ、返事しろって」
「待たんかい!」
「待てねえ」
 だってそんなに赤い顔してる。そう言った宮地の頬も少しだけ赤くて、あれもしかしてと気がついた。
「恥ずかしいん?」
「……刺すぞ」
「わあ、当たりなんやー」
 宮地も恥ずかしいのだと気がつくと少しだけ気が楽になった。
 だからワシは決心をして顔を上げる。
「ワシも、好き」
 宮地のことが好きだと言えば、彼はぱっと顔を明るくして、それからワシの左手を取った。
 そしてそのまま薬指に口付ける宮地に、何を恥ずかしいことをと顔が熱くなった。
「じゃあ指輪買わねえと」
「展開が早い!」
 おとぎ話ですらもっとゆっくり恋をするものだと叫べば、意外とロマンチストだなと宮地が笑う。その顔には余裕があって、さっきまであんなに恥ずかしがってたのにと悔しくなった。
「ああもう宮地のあほ」
 勢いで呟けば、好きなだけ言えばい
いさと上機嫌で返されたのだった。

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