ピエロの泣き顔/笠(→←)今/無自覚/3年組が仲良し設定
タイトルは207β様からお借りしました


 たとえばほら、きみが笑っているとして。
 今吉翔一はいつも笑っている。うっすらと人好きのする笑みを浮かべて、飄々とした態度をとって、いつも真意が掴めないような少年だ。それが良いのか悪いのかは人によって様々だろうが、笠松幸男という少年はそれが気に食わなかったらしい。片方がそんな感情を持っていればもう片方も察するもので、二人はあまり仲が良くなかった。いつの間にか会話をするようになった仲間たちで集まる時も、二人は離れた位置で仲間たちとの会話を楽しんでいた。

「笠松って今吉のことが嫌いなの? 」
 ある日、仲間の一人が笠松に問いかけた。性善説を信じる彼のその言葉に笠松はしばらく黙り込み、嫌いではないと言った。意外そうに目を丸くする彼に、笠松は間を空けて答えた。
「気に食わないだけだ」
 嫌いではないと繰り返した。

「今吉は笠松のことが嫌いなのか」
 ある日、仲間の一人が今吉に問いかけた。わりと何でもソツなくこなす彼のその言葉に、今吉はへらりと笑った。そして、嫌いではないと答えた。仲間は分からないなと首を傾げ、そんな彼に今吉は笑って答えた。
「なんや、嫌われとるらしくてなあ」
 ちょっと気まずいだけだと言った。

 それからも、二人はお互いを避けていた。喧嘩もしなければ、嫌味を言うこともない。至って平和だったが、仲間たちはそれではいけないと結論付けた。どちらも悪い人間ではないと仲間たちは信じている。仲良くなれないなんてことはないだろうと考えた上で、現状維持なんて何も進まないではないかと言ったのだ。だから、彼らは二人が会話をするべく行動した。
 しかし、笠松も今吉も察しが良い少年だった。二人は周囲の様子に気がつき、頭を抱えた。そんな大層なことをしてもらわなくてもいいと言ったが、二人の意見は却下された。かくして、二人は周囲の思惑によって二人きりになった。

 笠松は気に食わないと言う。今吉はそうかもしれないと笑う。笑って、笑った顔に笠松はそれが気に食わないのだと言った。
「笑いたいなら笑えばいい。泣きたいなら泣けばいい。人間笑ってばかりで居られるわけねえんだよ」
「そないなこと言われてもな」
 そうして作られた笑顔の化粧に、笠松はならばと言った。
「俺の前では無理に笑うな」
 そうしたら上手くやれる気がすると言うから、今吉は驚いたように鋭い目を見開いて、しばらくするとハハと乾いた声を上げた。
「男前な人やねえ」
 善処するわと少年は眉を下げたのだった。

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