月明かりに佇む/笠今/よるのはなし、まどべにて、あなたと/未来捏造+同居してます
二万打ありがとうございました!
タイトルは シュガーロマンス 様からお借りしました


 なにしてんだ。そうやって話しかけた。
 夏。夜の帳が下りた頃。笠松は隣に恋しい人がいない事に気がついて眠たい目を擦りながらベッドから降りた。ふらふらと歩いてさ迷えば、やがてリビングにたどり着く。ふと風に気がついた笠松はベランダの方を見た。するとガラス戸が開いており、外に恋しい人がいる事を知った。
 はためく真白のカーテンの向こう、雲が早く流れる空から降り注ぐ月明かりを浴びてその人は立っていた。その人、今吉は笠松に気がつかずに外を眺め続けている。笠松は面白くなさそうに拗ねた顔をして、そっと彼の背に近寄った。今吉はぼんやりと外を眺めていて笠松に気がつかない。やがて笠松が彼の肩を叩くとびくりと震えて振り返った。艶やかな黒髪が月光で煌めいている。それを目に留めながらも、どうしたんだと笠松は問いかけた。今吉は決まり悪そうに頬を掻き、へらりと笑った。
「満月やから、外見たいなーって思ってな」
 冷えてしまうだろうから室内に戻ろうと言う今吉を、笠松は引き止めて待ってろと言いつける。そして台所に戻ると常温の麦茶をコップに注いで今吉の元に向かった。
 差し出したそれを今吉はお礼を言いながら受け取り、半分ほど飲んでからふうと息を吐いた。
「思ったより喉が渇いとったんやなあ」
「いくら夜は過ごしやすいからって水分補給を怠るなよ」
 しかしよく分かったなと今吉が不思議そうにすると、笠松はいつも見ているからなと言ってのけた。今吉はクスクスと笑って、相変わらずずるい人だと呟いた。
「なあ、飲み終わったら散歩に行かん? 明日は休みやし、なんか寝れる気がしなくてなあ」
「珍しいな。いつもはクーラーの効いた部屋から出たがらねえのに」
「それはそれ、これはこれ、やで」
 ははっと楽しそうに笑った今吉に、笠松は平気そうだなと呟いた。その言葉に驚く彼に、笠松はそれぐらい分かると言う。
「煮詰まってたんだろ」
 そうして呆気にとられている今吉に、そろそろ行くかと手からコップを取り上げた。まだ飲み終わってないのにと声を上げた今吉に、飲みたいだけ飲めばいいんだと言って財布を手にする。
「自販機で何か買うか」
 奢ってやるよと笑った笠松に、今吉は一度瞬きしてから、ありがとうと笑い返して彼の隣に向かったのだった。

- ナノ -