笠今/手のひら遊び/サブテーマ:隣に座って愛を語る


 手のひらから全てが伝わってしまえばいい。
 笠松の手はごつごつとしているが、滑らかだ。クリームをちゃんと塗って手入れしてある手は、バスケだけのものではなく、趣味のギターのためでもある。それがちょっとだけ嫉妬するような、羨ましいような、複雑な気持ちになるけれど、言わないでおいている。代わりにその手を触って、マーキングにならないかなとアホな事を考えながら握ることを繰り返す。いつか気がついてほしいような、そうでもないような気持ち。それはとても女々しいとは思うが、嫉妬なんて事を言うのは恥ずかしいのだから仕方ない。

 笠松の部屋。二人きりの今日も笠松の手を握る。にぎにぎ、にぎ。今日はハンドクリームをつけてやるという大義名分付きで存分に握る。マッサージをするように手を滑らせながら、彼の滑らかな手を触った。ワシの指の感触が笠松の手に残るように。そして、ワシの手にも笠松の手の感触が残るように。
(あー、我ながらめんどくさ。)
 自分の女々しさに呆れながら、無言でハンドクリームを塗っていると、おいと声をかけられた。その声に顔を上げると眉を寄せた笠松がいた。
「何。」
「顔、怖えぞ。」
「君に言われとう無いわ。」
 思わずムッとして返して、しまったと思う。これでは不機嫌なのだと認めてしまっている。実際、分かったのだろう。笠松はため息を吐いた。
「お前が、」
「は? 」
「触るからだろ。」
 その、全てをわかっているような言葉に気まずくて何も返せないでいると、さっきまでされるがままだった手がワシの手を握った。驚いて、思わずその手から逃れようとすれば、笠松は力を込めてワシの手を握った。
「痛い! 」
「聞けって。」
「離し、」
「落ち着け。」
「落ち着いとるわ! 」
 思わず逆ギレすれば、笠松は苦笑した。その笑顔に少し冷静になって、もがくのを止めれば笠松の手が緩んだ。でも、もう逃げようとは思わなかった。
 笠松はさっきの続きを言う。
「お前が触るから、手入れしてんだよ。」
「……ええ。」
「その顔やめろ。そりゃ前から手入れはしてたけど。」
 でも今吉が何度も触るから、意識して手入れをし始めたんだ、と。その言葉に、頬が熱くて熱くてたまらなかった。
 だって、この手はもうワシのものだったのだ。ってことで。
「うっそお。」
「嘘じゃねえよ。」
 真っ赤だと、ワシの顔を触って笑う笠松は楽しそうで、ワシは俯向くことも出来ずに、染まりきった赤い顔を晒すしかなかった。
 嗚呼、悩む必要なんてなかったのだ!

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