宮今/ハートに目打ち/同居設定/おそらく社会人の二人で休暇の日


 ふりかぶって、ぐさっ。
 本日はホットミルクの日らしい。今吉は朝から数えて三杯目のホットミルクを作っていた。あんまり飲むと腹壊すぞと言えば、今日はご褒美だからいいのだと上機嫌に返された。
 ご褒美とは一体何なのか。特に何かあったわけではないように思っていたのだが、何か頑張ったらしい。自分へのご褒美というからには努力したという事なのだろう。褒めるべきだと俺は思い、声をかけようとして、黙る。褒めると言ってもどう声をかければいいものか。褒めるのが苦手というわけではなくて、理由がわからない以上は言葉選びが上手くいかないのだ。
 困った。だがとりあえずはと今吉を呼べばどうかしたかと不思議そうにソファに座る俺へと近付いてくる。不思議そうではあるが上機嫌そうだということに変わりはなかった。いつも以上に今吉が何を考えているか分からない。俺は言葉が見つからないのだからと心の中で呟いて、困っていることを悟られないように気をつけながら彼の体を抱き寄せた。抱き寄せた今吉からは困惑の声がして、今は仕方ないからそれを無視することに決めた。
「よしよし。」
「わ、ちょ、髪がぼさぼさになるわ!」
「よーしよしよし。」
「な、何なん?! なあ!」
 頭をわしゃわしゃと撫でていたら抵抗したいらしい今吉が俺の手から逃れようと四苦八苦する。ちょっと面白いと思って続けていると、困り果てた様子になったので彼を解放した。何だったのかと混乱している今吉に、俺が訳を言えずにまごついていると、嗚呼と納得された。

「これ。」
 笑顔で見せられたのはオレンジ色のマフラーだった。完成したのだと満足そうにする今吉に、こんなものを作っていたのかと驚いた。
「すげえな。」
「ちまちま作ってたんやけど、そろそろ完成しそうやったから夜なべしてな!」
「へえ。」
「んで、はい。」
 差し出されたマフラーに、理解ができなくて何も言えずにいると今吉は繰り返しそれを差し出した。
「え? 」
「どうぞ。ほら、寒いし。宮地のマフラーは去年捨てて、まだ新しいの買っとらんやろ? 」
「そうだけど……。」
 いいのかと困惑して聞けば、今吉はその為にだとやわらかく笑った。
 俺はマフラーを受け取る。少し固めだけど柔らかなそれは愛情が沢山詰まっていると感じて頬が緩んだ。少し気恥ずかしくなりながらもありがとう感謝の言葉を伝えると、今吉は嬉しそうでありながら楽しそうに笑った。

「さあ! 今日はご飯も張り切るでー! 」
「いや、飯は俺が作るわ。」
「え、どうしたん? 」
「いや、礼も兼ねて美味いもん作る。」
 兼ねてとは何かと不思議そうにした今吉に、褒美だよと少しばかりぶっきらぼうに伝えたのは仕方ないだろう。だって今吉が俺の為に頑張ったという事が本当に嬉しくて仕方ないんだ。
「わは、顔が赤くなっとる。」
「うるせえ轢くぞ。」
「わははっ。」
 楽しそうな声が、本日何度目か分からないぐらいの幸せを感じさせたのだった。



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