赤→今/愛情はきっとあなたなのだろう。


 出会ったのはとある料理屋。東京でたまに訪れる馴染みの店。そこに赤司がいたのだ。
 京都の学校だろうに、なぜ東京にいるのか。出会った時に挨拶してから問いかければ、家の事情でねと笑われた。
 それから何度かその店で遭遇し、お互いに一人で店に寄るものだから二人席に座ればいいのにと店主に笑われるぐらいに打ち解けた。それだけ打ち解けられたのはおそらく、ワシにとって赤司が思った以上に面白い人物だったからで、赤司にとってワシが会話するに足る人物だったからだろう。じゃなければ打算にまみれたお互いがこうも歩み寄れることはない。

 本日の席はカウンター席。そこで赤司は湯豆腐を頼んでいた。ほぼ毎回頼んでるのを見かけるそれに、好きやなと話しかければまあねと言われた。
「この店の湯豆腐は美味しい。もちろん他の料理もなかなかだ。」
「お、めっちゃ褒めとる。」
 よかっなたなおっちゃんと店主に声をかければ光栄だと笑っていた。江戸っ子気質の雰囲気漂う店主だが、実はすごい人らしく、なんとこの店は知る人ぞ知る名店だったらしい。そう、それはらしいと聞いただけで、ワシ自身はふらふら散歩してたらたまたま目にとまったので通い始めた身である。初めて聞いた時は、通りで飯が美味いと納得したものだ。そして驚いたことは値段のリーズナブルさだったりする。学生でもちょっと頑張れば手が届くお値段はこの店の強みになるだろう。ただし立地は街の中の路地裏の奥と、悪すぎる。立地のことを聞けば、客が多いのは嫌だと笑われた。おっちゃん、それでいいんか。
 かくして赤司の前に湯豆腐が置かれ、ワシの前には煮魚が置かれた。好物がうな重であるワシは日本食が好きなのだ。
 本日の煮魚は何の魚かとか、見た目が相変わらず美しいなとかと目で楽しんでから箸を魚の身に入れる。真っ白な肉が柔らかい。口に運べばほろほろと身が解け、優しい味付けが体に染み渡る。美味しいと呟けば、ならば俺も頼もうと赤司が店主に頼んでいた。そしてワシも湯豆腐が美味しそうだからと店主に頼んだ。真似っこはいつものことで、人の頼んだものが食べたくなるのは真理である。
 全くの静寂ではなく話し声や調理の音が聞こえる穏やかな店内で、ワシの食事がひと段落ついたタイミングを見計らったのか赤司が話題を振ってきた。今日の内容は青峰のことである。どうしていると聞かれたので、いつも通りだと答えれば、それなら安心だと笑った。よく笑う子だと思いながら、安心してもいいのかと意地悪に問えば赤司は何でもないように言った。
「妬けるぐらいにね。」
 その返答に違和感を感じて動けなくなった間に彼は続ける。
「愛情とはきっと貴方のことを言うのだと思うよ。」
 そして振り向いて、その優しく歪んだ目にうつったワシは、それはそれはたいそう間抜けな顔をしていたのだった。

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