緑今/夏祭りの序盤/友情出演:高尾/会話多め


 その日、緑間は運が良かった。無事ラッキーアイテムを手に入れていたことは当然であって、その恩恵は緑間にとって当然のものである。つまり、それに当てはまらない程に運が良いと思えるだけの幸運が巡ってきていた。それはつまるところ、会う予定のなかった恋人に偶然出会えたことであったりする。
 場所は地域の祭り。露店が並ぶ祭りは昼間に始まり、夜の花火で終わりを告げる。そんな祭りに緑間は高尾に引っ張られて来ていた。夕陽のオレンジ色に染まる風景は緑間の地元のものでも高尾の地元のものでもない。そんな祭りはなかなかに賑わっていて、子供たちや童心に帰ったかのような大人のはしゃぎ声が満ちている。緑間はそれらを眺めて、ふとたこ焼きに視線を止める。それに目ざとく高尾が気がつき、そして意味ありげに笑むと買ってくると緑間から離れた。緑間はそれを黙って見送り、その場で待つ。道の往来だが人々は大した障害物ではないとするすると彼を避けて歩いて行った。頭一つは確実に抜けている緑間が注目を浴びないのは祭りの浮かれた空気がそうしているのだろうか。
 そんな緑間に声をかけた人物がいた、緑間はその声で誰か分かったのか、急いでその声の方に振り向いた。そこには黒髪で目を細めて眼鏡を掛けた青年、緑間の恋人である今吉翔一がいた。
「今吉さん?!」
「やっぱ緑間や。こんなところで棒立ちしてどうしたん。あれか、高尾に連れて来られたんか。高尾はどこなん。緑間を放置するなんてらしくないわあ。」
「あ、いえ、たこ焼きを……」
「買いに行ったん?ならワシも待ったるわ。ほら、もっと人の邪魔にならんところに行かへんと。」
「しかし、」
「高尾なら緑間がどこに居たって見つけると思うで。というかその身長と髪色を今活かさんでいつ活かすんや!」
「あの、少なくともこういう時ではないと思うのだよ。」
「せやな!まあ、その辺の御託はええわ。邪魔になるから向こう行くで。」
 今吉はそう言うと緑間の腕に手を引っ掛けて引っ張って歩き出す。緑間はそれについて行き、やがて人の往来の少ない道の端に並んで立った。
 今吉はふうと息を吐いてからそういえばと緑間に問う。
「ここの祭り、よお知っとったな。高尾情報なん?」
「はい。高尾が行こうと、」
「やっぱりなあ。ワシはポスター見て来てみたんやけど、高尾もそうなんかもしれへんな。なんか花火がいつもより多く上がるらしいで。」
「そうなんですか。」
「あ、せっかくやからワシも同行させてや。実は一人でなー、ポスター見て思い立って外出届出してぽっと出てきてしもうて。」
「是非、一緒に、お願いします。」
「はは、そんな固くならんといてや。にしても高尾どうしたんやろ。」
「遅いですね。」
「迷っとることはないと思うんやけど、って居った。」
 今吉が高尾に気がつき、こっちだと呼ぶ。高尾はするすると人の間を通り抜けて今吉と緑間の元へと駆け寄った。その両手には3パックのたこ焼きがある。それを見て今吉が笑った。
「なんや、ワシが居ること気がついとったんか。」
「いやーなんか緑間を見て立ち止まった人がいるなーって思ったら見覚えありまくりで!合流しててよかったです!」
「それなら言えば良かったのだよ。」
「それじゃあ面白くないっしょーじゃ、どこで食べます?俺は食べ歩きでもいいですけど緑間はせめて立ち止まりたいだろうし、今吉さんは食べ歩きするキャラじゃないし。」
「いやそれワシってどんなキャラなん?食べ歩きぐらいできるわ。でもまあ落ち着いて食べたい気分やからどっか場所探そか。」
「なら向こうに人通りが少ない場所が見えるのだよ。」
「じゃあそこでええんとちゃう?」
 三人は歩き、脇道のそばで立ち止まった。そこは道から少し逸れているので人が少なく、落ち着いて食事ができそうだ。三人は熱いたこ焼きを頬張り、次の目的を話し合う。最終的には花火を見ると決まっているので、その時間までに場所を確保しなければとなったようだ。
「高台とかあるんですかね?」
「どうやろ。地理が全くわからへん。」
「ググればいいのだよ。」
「ローカルな祭りやからなあ。」
「というか川辺ならどこでも良さそうですよねー」
「でも人がごった返すやろ。あ、今から取っとけば問題あらへんか。」
「なら俺が場所取りをするのだよ。」
「そんなに動きたくないん?」
「あ、いや、そういうわけでは」
「はは、冗談や。ワシもなるべくついとったるからなー。」
「俺買い出しに走りますよ!蹴られたくないですしー。」
 にっこりと笑う高尾はどこか幸せそうにしている。緑間がそれを指摘すると、高尾は嬉しそうに言う。
「いやー緑間が幸せそうだと嬉しくって!性別のことがあるかもしれませんけど、やっぱ人付き合いが苦手な相棒の今後が少しでも明るいと……泣けてきた。」
「いやそんな感慨深い反応されてもな?きみは親とちゃうんやからな?落ち着きー高尾も良い人見つかるとええな。」
「運命の糸は自分の手でふんだくらないとですね!」
「ふんだくるもんやないやろ?!」
「漫才してる間に場所の候補が減るのだよ。」
「きゃーっ嫉妬!こわーい!」
「キャラ崩れとるで!」
「いいから行くのだよ。」
「はーい。」
「ほな川は向こうやな。」
 三人は並んで歩き出した。

 やがて辿り着いた川辺には人がまだ比較的少なかった。そこそこ人がいるものの、十分に座る場所を選べるようだ。三人は花火がよく見える場所はとわいわい会話しながら座った。
「始まるまであと二時間はあるやろ、どないする?」
「俺お好み焼き買ってきますね!」
「頼むのだよ。」
「すまんなあ。」
「じゃあついでにわたあめも!」
「わたあめは帰りに買うもんとちゃう?」
「それもそうですね!んじゃ緑間、グッドラック。」
「何がなのだよ。」
 高尾はいい笑顔で親指を立ててから買い出しに走って行った。そんな高尾に今吉はくすくすと笑い、緑間は頭が痛いと額に手を当てた。
「高尾はおもろいなあ。」
「ただの馬鹿なのだよ。」
「そんなことないやろ、気遣ってくれたんやし。あ、緑間もおもろいで!」
「張り合う気はないのだよ!」
 今吉はあははと笑い、緑間はその笑顔を見て間を開けてからふわと笑った。花火まであと数時間、緑間は幸せに花火を見ることになるだろう。

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