黛今/やさしくなれないわたし達/付き合ってるのにすれ違い/本当のことを言ったら離れてしまうと思っている二人


 きみじゃなくても良かった、なんて。
 メールは一週間に二通ほど。電話は一ヶ月に一度。会うのは三ヶ月に一回。京都と東京の距離を考えれば多い項目や、この距離だからこそ少ない項目があれど、俺たちの関係は誰が見ても恋仲だった。
 告白は俺からだった。代わりでいい言えば、それならと今吉は承諾した。だから俺は俺に相応しく代替品であり、今吉も等しく代替品だ。
 俺にとって今吉は恋人になってみたらどんな風になるのだろうと思ったまでであり、そこに深い愛はない。そう今吉には言ってある。本当のことを今吉は見抜いているかもしれないが、それはいつまでも見て見ぬ振りを続けてほしかった。
 三ヶ月ぶりに会った今吉はいつも通りに穏やかそうな雰囲気をして、俺を見つけるとひらひらと手を振った。その姿に安心し、俺は歩くスピードを早めた。
 場所は東京、季節は夏。本当なら会うことは出来ないのにこうして会っているのは盆休みだからだ。盆に一日だけ与えられた休日は今吉も同じ日だった。だから、会う。
 今吉の首筋に汗が一粒流れた。そこそこ待っていたのだろう、それに喜ぶことはしてはならないのにふわふわとした気分が湧き上がる。暑いと呟いて気温のせいにすれば、今吉は涼しいところに行こうと歩き出した。その隣に並んで歩くが、その距離は少し遠めにした。
 百貨店の中、本日の目的であるボールペンの替え芯を探す。特殊なものだからここぐらいしか置いてないのだと言う今吉に、俺はそうかと相槌を打つ。そのボールペンは俺からの贈り物だった。
 目当てのものを見つけて購入し、喫茶店に入る。コーヒーを頼んで、しばらくして運ばれてきたコーヒーを飲みながら今吉は語る。
「しかしよう晴れたな。」
「建物の中なら関係ないだろ。」
「それもそうやな。そういえば昨日桜井が弁当見せてくれたんやけど、凄くてな。」
「重箱か。」
「なんでや、なんでそこに飛んだんや。なんかかあいらしい弁当でな、しかも手作りらしくて。あれはいい嫁になるで。」
「男だろ。」
「けどあれは女子力としか表現できひんわ。」
 くるくると回るような会話が心地よくても、そこに愛の言葉は紡がれない。自分でそう仕向けたのに、少しだけ心が痛かった。
 なあ、と今吉が口を開く。何だと言えばへらりと笑った。
「ワシ、黛が苦手やなあ。」
 そうやって歪んだ顔に、俺も見て見ぬ振りをする。それがきっと俺の最善であり、今吉の最善だからだ。
「そりゃ、どーも。」
 声は震えていないだろうか。



title by.恒星のルネ

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