黄今/幸福の睡蓮/未来捏造


 くるくると回る風車と、半透明の風鈴が耳に痛い。思い出。
 二人で歩いた小道は今もあるのだろうか。旅先のあの場所は今でも誰かの思い出に寄り添っているのだろうか。知りたくて、知ってしまうのが怖くて。
 進学したら時間が合わなくなってしまうことは分かっていたのに、それが寂しくて仕方がなかった。そもそも俺は仕事とバイトの二足の草鞋を履くという忙しい身で、そんな俺に今吉さんが合わせてくれていた。けれど進学してまだ一週間、慌ただしい日々の中で俺と会ってくれる日はもう随分となかった。というか準備期間で忙しい時も含めたら二週間は会ってなくて、俺は今吉さん不足で干からびてしまいそうだ。
 だからこうしてほんの少し昔のことを思い出す。忙しい合間を縫って小旅行をしたり、近場で食事をしたり。金銭面では俺の方が余裕があるから奢ることがあったけど、ならばと今吉さんは俺の家庭教師みたいなことをしてくれた。受験で忙しかったのに俺のために時間を割いてくれて、俺は本当に嬉しかった。しかも成績が上がったのだから感謝してもしきれない。余談だけど、追試で部活に出れなそうだったのに追試を逃れて部活に予定通り出れることになった時は先輩たちが今吉さんにお礼の電話をした。そもそも何で電話番号の交換をしているのかと吃驚して聞けば、なんか色々あったらしい。その含みのある疲れた笑みは一体なんだったのか、今でも謎だ。
 さて、しばらく会えていないわけだけども俺はそれで黙ってるタイプではない。黒子っちに応援エールももらったし俺はきらきらの無敵モードだ。なので前に教えてくれた今吉さんの新居に向かって、玄関の前に立つ。そこはアパートで、なかなか大きなところだった。深呼吸をして、意を決してインターホンを押す。
「ほーい。」
「うえっ?!」
 突然扉が開くものだから驚いて後ずされば、にこにこと笑う今吉さんがいた。二週間ぶりの恋人に胸が高鳴るが、それよりも。
「今吉さん!せめて誰が来たのかぐらい確認してくださいっス!」
「いや確認したで。あー黄瀬やー思ったからガチャっと。」
「確認はっや!!もし間違ってたらどうするんスか!不用心ッスー!」
「はは、ワシが黄瀬を間違えるわけないやん。」
「嬉し、違う。今そういう話じゃないッス。あーもう一人暮らしだからもっと気をつけてくださいッス!あとドアぶつかりそうなんでその辺も。」
「黄瀬なら避けるやろ。」
「信頼が危ない!」
 一通りのやりとりを終えて、息を吐いてから今吉さんに向き直る。はよ入り、なんて笑う今吉さんに俺はぐっと意気込む。大丈夫、できる。なんたって俺は現在きらきらの無敵モードなのだ。大丈夫、大丈夫のはず。拒否なんてされない。
「大学卒業したら、一緒に、暮らしてください。」
 言えた。けれど顔から火が出るみたいに熱い。きっと俺は真っ赤で、いっぱいいっぱいで、全くかっこ良くなんかなくて、でもそんな俺に今吉さんは優しい笑顔を向けてくれて。
「気が早いなあ。」
 ワシでよければ喜んで、なんて。



花言葉:清純な心、純情
※使用した言葉のみ抜粋
2015.7.4 7番今の日おめでとうございます

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