金魚とライチ/葉今/同居してます/未来捏造


 笛と太鼓の音がする。祭りだ。俺たちはそんな喧騒からは離れた場所に居た。スーパーマーケットの出口、待ち合わせのその場所で俺は立っていた。買い忘れた物があったからと今吉さんはさっきスーパーに戻った。俺は買い物袋を片手にぼんやりと待ち人を待つ。夏祭りに行きたかったなとも思う。けれどそれ以上にお腹が減っていた。時間は夕方、俺たちの夕飯は六時頃と決めているのでちょうどお腹が減る時間だった。
 自動ドアが開く音がして、今吉さんが戻ってくる。遅うなってすまんなと笑う今吉さんに、早く帰って冷やし中華食べましょと夕飯を思い浮かべて言えば、楽しそうやなと笑われた。別に構わないことだけど少し悔しくて、今吉さんを見ていれば手元に赤いものがあることに気がつく。今吉さんがそれを持ち上げて笑った。
「金魚のぬいぐるみ。なんかレジのおばちゃんがくれたわ。」
「へえー!金魚のぬいぐるみなんて初めて見た!」
 丸っこいそれをつんつんとつついていれば今吉さんはぬいぐるみを俺に押し付けた。そしてもう片方の手にも持っていた金魚のぬいぐるみを持ち上げてお揃いだと笑った。

「そういえば買い忘れたのってなに?」
 帰路を並んで歩きながら聞けば、ああと今吉さんは言う。
「ライチが入荷したって聞いてな。珍しいから買ったんよ。」
「ライチ?あの、赤っぽくて丸いやつ?」
「それや。」
「でもあれ当たり外れ大きくなかった?」
 そう言えば今吉さんはくすくすと楽しそうに言う。
「食べてからのお楽しみやな。」
「うへえ。」
「でも当たりは美味しいやん。博打と一緒やで。」
「俺も今吉さんも博打やらないのに?」
「せやな!」
「もー、変なところで賭けに出るよね!」
 呆れて言えば今吉さんは二人ともそうやろと言う。確かにそうだけれども。だって男にはやらねばすたる何かがあるし、多分。そんな感じの言葉があった。
「葉山ー電信柱にぶつかるでー。」
「うわあ!もっと早く言ってよ!」
「なんかおもろい顔しとったし。」
「そんなことないって!それに今吉さんの方が面白い顔してる!目を細めてる!」
「ワシの通常運転じゃボケ。」
「こわっ。」
 腕をさすれば今吉さんはクスクスと笑った。あ、なんかいいなと思ったら腕が伸びてきて思いっきり鼻をつままれた。
「痛い!」
「そうやろなー痛くしとるもんなー。」
「ならやめてよー!」
「ほい。」
「あー、痛かった……。」
「はは、ほな帰ろか。はよ帰って夕飯食べてライチ食べるでー。」
 そう言ってスタスタと歩いって行ってしまうものだから俺は待ってと慌てて追いかけたのだった。



花言葉:自制心、節制
2015.7.4 7番今の日おめでとうございます

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