笠今/かくれんぼ、さびしんぼ。/探す宛もないのに。/あと少しだけそばにいさせてください。


 探しもの、探し者。どこに行ったのか。
 まるで狐みたいなやつなのに、どうも猫のようで。うろうろと住処を決めないものだから、首ねっこを掴んで部屋の中に投げ入れて、風呂に押し込んで、寝床を用意して。それから飯をやって好きなようにさせた。最初は落ち着かないような様子でいたが、だんだんと緊張感が解れていってリラックスしていくのが楽しかった。
 けれどある日目覚めたらそいつはどっかに逃げていた。
 さて、俺はあいつを逃がすつもりは毛頭もないのであって。すぐに思いつく限りの友人に電話をして人海戦術を駆使した。俺自身も外に出て街の中を走り回る。この街は海辺の街で、あいつは窓から見える海が大好きだと笑っていた。だからと海辺が見える堤防を走っていれば、岩陰にあいつが見えて、俺は堤防を乗り越えた。どん、と落ちるように着地すればお前はこっちを見て信じられない顔をする。だから俺は笑ってしまう。
「しんっじられへん。なにしとんの?!」
「怪我してねえからいいんだよ。」
「んなわけあるかー!」
「で、お前、なんでこんなところに居んだよ。」
「そら、まあ、うん。」
 目をうろつかせるから、その顔を掴んで視線を合わせる。小さいけれど綺麗な黒い瞳。
「出掛ける時は一言言え。行くななんて言わねえし、無理についていこうとなんてしねえよ。束縛したいわけじゃねえからな。心配なだけだ。」
 潮風、におい。かすかに、お前のにおいがした。
「……あほ、言うのが遅いわ。」
「はは、わりいな。」
「なに笑っとるん。」
「いや、拗ねるなんてらしくねえなってな。」
「はあ?!」
 猫、狐。まあ、動物みたいなやつなんだ。
「さあ、かくれんぼはお終いだ。帰って皆とパーティしようぜ。」
「なんやそれ。」
「お前を探すために皆に連絡したんだよ。必死だったからな。」
「……あほ。」
「今日のお前なんでそんなにらしくねえの。」
「そういう時もあるんですー。ナイーブなワシな時もありますー。」
「あっそ。」
 片手、お前の手を握っていた。骨ばった白い手は俺の手とは大違いだ。同じ、男の手なのに。
 海のにおいに包まれて街の中を歩く。友人たちと出会うたびにパーティの話をして、会場は赤司に用意してもらうなんて黛が言っていた。盛大なパーティになるだろう。
「楽しみか?」
「誰が。」
「お前が。」
「そら、まあ。」
「なら良かった。」
 帰ったら買い物行くぞ、持ち寄りのパーティだからな、って言えばお前は頷いて俯く。耳が赤くて、何を照れてるのだか。
「……ありがと。」
「おう。」
 握り返された手に、心が温かくなった。

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